■第13章(2)

毎日を学校と自宅の往復で終える日々はメリハリもなく、気づけば終業式の日を迎え、生徒達は冬休みの過ごし方に思いを巡らせていた。
「俊、帰らないのか?風邪引くぞ」
暖冬とは言え体にこたえる寒さの中、一人でバルコニーに出ていた俊介に朝矢が声をかけた。答えない俊介に痺れを切らしたか、ほら、と腕を引っ張る。分かったよと振り返った顔によほど覇気がなかったのだろう、朝矢は一度目を丸くすると、困ったように眉尻を下げた。
「まだ、連絡取ってないのか?その…彼女と」
「まだっつーか…」
もう会う事はない。そう言おうとしたのが分かったのか、朝矢はもう一度俊介の腕を引いた。
「俊、俺の相談乗ってくれた時のこと覚えてる?辛そうで見てられないって言っただろ?今の俊がそうだよ…俺、力になれないかな…」
「いや…、悪い、心配かけて。大丈夫だから」
他人のことなのに悲しそうな顔をして問いかけてくる友人に、俊介は笑顔を作って見せた。口をへの字に曲げた朝矢の視線は「辛いくせに笑うな」と言っていたけれど。
「ほら、もう行けって。彼氏が待ってんぞ」
ぽんと背中を叩いて、朝矢を教室に戻す。待っていた木下に悪い、と手で合図して自分も中に入って扉を閉めると、小さく鼻を啜った。

海外赴任中の母親からは、年末年始も一時帰国はしないとの連絡があった。放任なのか信頼されているのか、どちらにしろ一人にしておいても問題ないと思われているのは確かなようで、今の無気力状態を見られずに済むと思うと安堵した。
鞄を置いて私服に着替え、ベッドに倒れ込む。うとうとと微睡み始めた時、インターホンが鳴った。出てみると郵便配達員で、ポストに入らなかった郵便物を持ってきたと言う。母親宛の書類と思しきそれを受け取ると、
「郵便受け、チラシとか結構一杯になってましたよ」
「あ…すみません」
配達員に言われて、ここ最近はポストの前を素通りしていたことを思い出した。見に行ってみるとその通りで、はみ出たチラシを一通り引っ張り出すと、中を確認する。ダイレクトメールや通販のカタログに混じって、何も書いていない茶封筒があり、変なものではないだろうかと訝しんで恐る恐るその場で開封してみると、見覚えのある本が入っていた。
(これって、マッチーに貸してって言ってた本…?)
さらに同封されていたメモに松田の筆跡を確認すると、俊介は急いで部屋へと駆け込んだ。
メモには、次に貸す約束をしていたのでと、返すのはいつでもいいと書いてあった。何度も何度も、字をなぞりながら読み返す。知らず、頬に赤みが差した。
胸中は困惑が大部分を占めていたが、松田が自分のことを気にかけてくれたことが嬉しかった。他愛もない会話を覚えていてくれたことが嬉しかった。
(返しに行ってもいいってこと、かな)

これを返しに行けば、松田に会えるのではないか。

そう思うと気が逸って、俊介は本を開いてページをめくり始めた。

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