■第12章(5)

松田のいない週末はすることがない。何もしなくても、本人はまだ仕事中でも、松田の部屋で帰りを待つということに意味があったのだと、これもつい最近気がついた。
初めは、帰ってきた松田に対して「おかえり」が言えなかった。他に恋人のいる松田を待つべき立場ではないと思っていたからだ。いつしか普通に言えるようになって、彼の隣が自分の居場所だと、無意識に感じていたのかもしれない。だから、松田の言動に恋人の影がちらつく度にいらついて、心を乱されていたのだ。
一度認めてしまえば、今まで分からなかった色々なことが何でも「好きだから」の一言で片付いてしまうのがすごい。
何も手につかなくて、起き上がるのでさえ億劫なのもきっとそのせい。まさに恋の病。
「…キモ」
好きだのなんだの、一年前の自分はただ鼻で笑っていたというのに。
あの日から、携帯はただ持っているだけのおもちゃになってしまった。電話もメールもしない、来ない。いっそ削除してしまおうかと思った松田の連絡先は、まだ消せずにいる。
布団の中で丸くなって、ぎゅっと枕を抱き締める。
…この部屋でも、松田を無理矢理抱いた。初めてキスをしたのも、一緒に眠ったのもここだった。もう松田の匂いなど残っているはずのないシーツに顔を埋めると、あいたい、と呟いて目を閉じた。

「さむー…」
自宅には食料もなく、買い出しと気分転換を兼ねて夕方になってからようやく外に出た。いよいよクリスマスが近づいた街中ではプレゼントを買い求める人の姿も目につき、自分も松田との関係が崩れていなければ何か考えていただろうかと思う。
スーパーで会計時に鞄を開けて、見えたものにふっと息を漏らす。松田が忘れていった本は、学校に行く時も肌身離さず持ち歩くようになっていた。今日も何となく、ただの買い物なのに持ってきてしまったけれど。でも、それも今日で終わりにしよう。この本を返して、携帯の連絡先も削除して、それで全て終わりだ。
「あれ、」
松田のアパートの前まで来ると本を出してポストに入れようとしたが、幅が合わず、そのままではポストに入らない。少し迷ったが、教えられていた番号で解錠し、ポストを開けた。
「……!!」
ポストの中を見て、俊介は息を呑んだ。

部屋の鍵。

もう使うはずのないそれが、そこには入っていた。

俊介の心臓が早鐘を打ち始める。自分のため?まさか。恋人のためだろう。互いに合鍵を持っていないと言っていたし。俊介が来ないのなら、余計なことを気にせず呼べるはずだ。
…自分が松田の部屋で過ごした時と同じことを、今度は他の人間がしているのか。あのソファで、キッチンで、ベッドで。
俊介は本をポストに押し込み、自宅へ向かって駆け出した。

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