■第12章(4)

「…ふられた」
「え?」
ぼそりと呟くと、頭上から朝矢の頓狂な声が降って来た。
「俺傷心中なの。分かった?だから放っといてくれる?」
自分で口に出したことでダメージが増幅したような気がして、突っ伏した体をさらに縮こまらせてガードを固めた。

放課後、朝矢に誘われて駅前のファミレスにやってきた。何を話すつもりなのかは聞かなくても分かる。先日のことに気を遣ってか、木下は連れて来ていなかった。
12月に入り、街中はきらびやかな装飾とクリスマスソングに彩られ、ファミレスのメニューにもそれらしきものが増えていた。
「それって、その人、俊のこと好きなんじゃないか…!」
自分が弱っている時には誘導尋問に乗ってしまうものなのか、まんまと聞き出されて事の顛末を話してしまった。目の前でパフェを食べながら聞いていた朝矢は、興奮気味に頬を赤らめてそう言った。
「そんなわけないって…」
手慰みにケーキのいちごをフォークでつついていると、かわいそうだと持って行かれてしまった。朝矢の口の中に消えて行ったそれを目で追って、溜め息をつく。ケーキの甘ったるさをコーヒーですすいで、俊介は頬杖をついて窓の外に目を移した。
「…あのさ、今朝の話。松田さんにお礼したいんだけど、何がいいかなって…」
話そうとしない俊介に、朝矢は話題を変えようと思ったのだろう。朝矢は俊介の想い人が松田だとは知らない。俊介にとってはまるで話題が変わっていないのだが、仕方がない。
「…年末年始は、たぶん忙しいよ。俺だって次いつ顔合わせるかわかんねーし」
「そっかー…」
残念そうに言う朝矢に、悪いけどもう会えないよ、と言ってやりたい。黙っていた時間は相当に長かったのだろう、いつの間にかパフェを食べ終わった朝矢がスプーンを置いた音に気がつくと、不満げに口を尖らせていた。
「なんか俊が落ち込んでるとか、気味が悪い。俺には自信満々に色々言ってきたくせに」
「余計なお世話だよ」
「余計じゃないって。なあ、その人にちゃんと好きって言ってないんだろ?言わないとダメだよ、その人不安なんだと思う…」
自分が片想いしていた頃を思い出したのか、朝矢はしょんぼりと項垂れた。そういえば朝矢は、付き合い始める直前に木下に避けられて辛い思いをしていた。
「言ったって無駄だよ。向こうが俺のこと好きじゃねーもん」
「だから好きなんだって!なんで自分のことになるとそんな鈍いんだよ…!」
もう、と、一向に進まない俊介のケーキ皿を持ち去って、朝矢は俊介が使っていたフォークでそれを食べ始める。
「間接」
「うっさい」
「チューしようか」
「その人にちゃんと告って、付き合ってしろよ」
無理だって、と笑いながらコーヒーに口をつける。曇った窓の向こうで手を繋いで歩くカップルに目を細めた。

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