■第11章(6)

「俺、最近付き合い始めた人がいるんですけど…悩んでる時に話聞いてくれたりとか、上手く行くように根回ししてくれたりとか」
「そうなんだ。俊がそんな風になるなんて、朝矢君と友達になる前は考えられなかったんだよ」
朝矢のことなら、松田は俊介から聞いていた。俊介が友達を思いやる気持ちを嬉しく思ったものだ。
「ちょっと、目閉じて…、朝矢君、目が印象的だからメイク映えしそう」
「そ、そうですか?」
髪を巻き終わって今度はメイクを施しながら、朝矢が女の子だったら俊介の好きなタイプだろうか、と、そんなことを考えた。
「あの、松田さんは彼女とかいるんですか?」
「えっ?…うん、まあ。いるよ」
突然自分に矛先が向き、松田は手を止めて目をしばたかせた。いるのは彼女ではないのだが、恋人の存在は肯定しておく。俊介と体の関係だけ結んでいるなどということは、この純粋そうな少年にはもちろん言えるわけがなかった。
「どれぐらい、付き合ってるんですか?」
「二年半くらいかな」
そう答えると、朝矢は自分と恋人に重ねて考えたのだろうか、ほうっと甘い溜め息をついた。
「いいなあ…。俺、こんどから何かあったら松田さんに相談しよっかな…」
「いいよ。役に立つか分からないけど、俺でよければ」
鏡越しに笑いかけると、朝矢は嬉しそうに頬を染めて頷いた。素直だなあ、と感心する。確かにこんな子が身近で悩み事を抱えていたら、解決してあげたいという気になりそうだ。自分が俊介と同じ立場でも、何か協力したいと思ったかもしれない。
と同時に、自分の世話も焼いてやったらどうだという松田の提案を、面倒だとかわしたことを思い出した。
「俊って、学校に好きな子とかいないの?俺にはそういう話してくれないんだよね」
何の気なしに聞いてみたのだが、朝矢ですら「人に興味を示さない」という印象を持っている俊介のことだ、心のどこかで「そんな様子はない」という答えを期待していたんだろう。
ところが。

「えと…俊、なんか付き合ってるっぽい人がいるみたいですけど…」
「え…?」
またしても松田の手が止まった。店内の有線放送は止めてしまったから、心臓の音がやけに大きく聞こえる。
「あ、俊は付き合ってないって言ってました。でも、話聞いてると、その人のこと好きみたいで…」
「そう…なんだ、やだなあ、俺にも相談してくれたらいいのに」
ははは、と無理矢理作った笑い声は、手は震えていないか。笑顔は不自然ではないか。…そんなことより、俊介のその相手は、誰なのか。
気になって、胃が痛い。

その時、カランと音がして、俊介が店の扉を開けて戻って来た。
「あれ、まだ?飲み物買って来たけど」
「あ…あとマスカラだけ。もう少し」
「じゃ、まだ見ないどこ。できたら呼んでー」
手前の待合いスペースで雑誌を開いた俊介が見えないように、松田は残りの作業に集中した。

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