■第11章(5)

次の週の金曜、俊介がカットモデルとして連れてきたのは、小柄でかわいらしい、ちょっと人見知りの。
「えっと、幸田朝矢です。よろしくお願いします」
男の子だった。
「俊から話は聞いてます。どうもありがとう」
聞いているのは日々の学校生活の話であって、今日来るのが朝矢だということではないが。朝矢に向かってにっこりと笑いかけた視線を俊介にそのまま移してやると、驚いただろ?とでもいうような顔をして、悪びれる様子はなかった。
(会わせたいと思ってた、ね……)
なるほど、そうだろう。俊介が高校に入って初めて出来た友達だ。松田もぜひ会ってみたいと思っていた。この子は最近クラスメイトと恋仲になったばかりだというし、ほぼ間違いなく松田が心配するような関係ではないだろう。
俊介がちゃんと話さないから、思い違いをした挙句に嘔吐するほどの精神的な打撃を受けてしまったではないか。
そうは思ったが、妙な気持ちを抱きながら施術することにならずに済みそうでよかった。相手は高校生だし、あまり時間が遅くなってもいけない。松田は仕度を整え、朝矢をシャンプー台に促した。

松田のカットは気に入ってもらえたようで、今度は無理を言って、本当は女の子で練習させてもらいたかったメイクとヘアセットもそのままやらせてもらうことにした。
「どんな風になるか楽しみだから、俺ちょっと外行ってこよっと」
「ちょっと、遅いんだからあんまりフラフラしちゃだめだよ」
店を出て行く俊介に声をかけ、ごめんね、と朝矢に向き直る。初対面の松田と二人にされてしまって緊張しているであろう朝矢を気遣いながら手を動かした。
「俊は、学校でもあんな感じ?」
朝矢の髪にホットカーラーを巻きながら、鏡越しに話しかける。
「はい、だいたい机で寝てるか、ぼーっとしてるか、どっか行ってるかって感じで…」
はにかんだように笑うのがかわいい子だな、と思った。俊介にこういう友達ができるとは思いもよらなかった。
「あの、松田さんて俊のこと中学の時から知ってるんですよね」
「うん、ちょうど1年ぐらいかな。知ってるっていっても、俊の私生活って謎だらけなんだけどね」
「あー分かります!いつ勉強してるんだろうとか…」
他人の噂話というのが良いか悪いかはともかく、共通の話題があると盛り上がるものだ。朝矢は俊介が中学生の頃の話を聞きたがり、松田は朝矢から学校での俊介の様子を聞き出した。
俊介は、クラスでも特に浮いた存在ではないということ。それでいて、朝矢は俊介に対して、必要以上に他人には興味を示さないタイプだという印象を持っているということ。仲良くしてほしいのに、朝矢の親友とはどうも馬が合わないようだということ。
「でも、俊っていいやつですよね。俺けっこう相談とか乗ってもらって」
だいぶ松田に気を許してきたのだろうか、朝矢はやはりはにかみながら話し始めた。

BACK←→NEXT
スピンオフトップへ


長編/短編/お題
サイトトップへ


広告が表示された場合はレンタルサーバーによるものです。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送