■第11章(3)

11月に入ると、空気が急に冷たく感じられる日が増えた。
店を訪れる人とも「寒くなりましたね」の挨拶が日常となり、カラーリングなどの待ち時間に出す飲み物もホットを希望する人が多くなった。
文化祭は盛況のうちに終わったらしい。俊介の話によると、クラスメイトの幸田と木下が後夜祭パフォーマンスに出場して準優勝したのだそうだ。クラスの出し物については、立ちっぱなしで疲れたという以外はあまり語らなかった。

「あー、ナオにも学祭来て欲しかったなー」
「え?」
今は、正人の部屋にいる。月曜の夜。いつものように一緒に過ごす休日の前の夜だ。
「ああ、正人のところもこの前だったんだ」
「も?」
「あ…店の先輩の弟さんが、学祭あって。休みもらえてたから、いいなって」
言葉の端を鋭くとらえられたのを取り繕う。もう何度「店の先輩」で乗り切ってきただろうか。正人は松田の私生活にはあまり干渉してこないので、特別なことでもない限り店の人間に会わせることはないと思う。そうでなければこんないつばれてもおかしくないような嘘はついていられない。
「ナオも早く偉くなって、休みとって学祭見に来てくれよー」
「はは、その前に正人が大学卒業しそうだね」
皆が学内外の恋人を自慢げに連れて歩くので、悔しいのだそうだ。男同士で堂々と歩ける訳ではないが、松田をもってすれば友人として紹介しても羨望の的になると正人は言う。
「そんなことないよ。買いかぶり過ぎだって」
「いやいや、ナオ高1の時結構モテてただろ?学校辞めるって聞いて泣いた女子がどれだけいるか」
「まさか」
あの頃は自主退学を前にして、正人に想いを伝えるかどうか悩みに悩んでいた時期だから、周りにどう思われていたかなんて全く気にしていなかったし覚えていない。あんなに好きで、悩んで、やっと側にいられるようになったのに。
「俺だって、ナオがいなくなるって聞いて、寂しかった。だからナオに告白された時、驚いたけど…嬉しかったんだと思う」
だから断らなかった、と、正人は真剣な目をして言った。
「正人…、あ」
どさ、と床に押し倒される。今日はもう我慢できないと言われ、そういえば先月デートした時もしていないし、この人とするのはいつ以来だったかと思ったが、思い出せなかった。

「は…ナオ、は、っ、…!」
「あっ、」
体の奥にどくりと熱が放たれる感触に身を捩る。松田自身はまだ達していないが、終わった、と思った瞬間、急速に熱が引いて行くのを感じた。
「ナオ、イッてない…?ごめん、久しぶりだったから俺、早かったかも…」
息を乱したままの正人が、まだできるとばかりに松田の腰を抱え直す。松田は慌てて止めようとしたが、正人が動き出すとどうしようもなかった。
結局、松田がドライオーガズムに達した振りをして正人を満足させたのは、三度目に受け入れた後だった。

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