■第11章(1)

ポストを開けると、鍵が入っていた。
「帰ったんだ…」
今日はそれほど遅くないのに。
先週、変な別れ方をしたからだろうか?それを気にしていたのならそもそも昨日は来てないと思う。いつもと同じように来て、食事を用意して松田の帰りを待っていた俊介に、別段変わったところはなかった。
「…あ」
ある。違ったところが。
あんなに早い時間に松田をベッドに急かしておいて、全く手出しをしてこなかった。わざわざ携帯の着信音を消したかどうかを確認して、キスまでしたのに、その後起こりうると思ったことは全く起きなかったのだ。

『別にそこまでしてヤりたい訳じゃ…』

俊介の言葉を思い出して身震いする。
本当に、俊介はもう自分に興味がなくなってきているのではないだろうか。これまでの俊介の人間関係は、話を聞く限り長続きしているものはない。セフレになる前を含めて一年近く続いているのは、かなり特異なケースと言えるだろう。
夏休み明けにも一度俊介が手を出してこなくなった時があったが、あれはどういう気まぐれだったのかよく分からないままだ。
玄関を開けて部屋に入ると、テーブルには「文化祭の打ち合わせに行くことになったので帰る」とのメモが残されていた。昨日はそんなこと言ってなかったじゃないか、と一人悪態をついて、カレンダーを見上げる。今準備をしているということは、11月の祝日が文化祭なのだろうか。一年前は俊介が受験生だったからだけでなく、そういう行事に全く関わろうとしなかった性格だったのを思い出す。
(高校では、ちゃんとクラスに馴染めてるんだな…)
いつも話に出て来る友達だけでなく、他のクラスメイトとも上手くやれているのだとしたら、松田にも嬉しいことだ。同時に、少し寂しくもあった。俊介の理解者は自分だけという、どこか優越感に似た感情を持っていたのだが、いよいよ自分は必要なくなるのではないか。
同い年の方が年上よりも相談しやすいこともあるだろう。例えば…そう、恋愛の悩みとか。
「俺には相談しないって、言ってたしなー…」
クラスメイトと、文化祭の準備。結構なことじゃないか。俊介に普通の学校生活を送ってほしいと願っていたのは、他ならぬ自分のはずだ。

とりあえず、俊介が自分のために何かしようという気になっているうちは、完全に飽きられたということはないと思う。冷蔵庫を開けて作り替えてある食事を確認すると、少し頬が緩んだ。
今ごろ俊介は、クラスメイト達とファミレスかどこかでおしゃべりでもしているのだろうか。文化祭の準備といえば、張り切るのは女の子たちだ。もともとストレートで、松田のことをセフレとしか見ていない俊介には、やはり同い年の女の子が魅力的に見えるのかもしれない。
「…みっともない」
誰かも分からない年下の子にやきもちなんて。俊介の手料理は自分しか知らないはずだと、温め直した食事を勢いよくかき込んだ。

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