■第10章(5)

入浴を済ませた松田にミネラルウォーターで水分補給をさせて、急かしてベッドに押し込むまで20分弱。
「こんなに早寝するの、久しぶりだな」
まだ眠くないと言う松田は、電気を消してもにこにこと笑っているのが分かる。修学旅行を思い出すのだそうだ。消灯時間には部屋を真っ暗にして、でも誰も寝なくて、隠れてこそこそと話をする、あの感じ。
「マッチーってたまにガキくさいこと言うよね」
「逆じゃないかな。ちょっとおじさんになってきたから、懐かしいのかも」
何か思い出したのか、松田はふふっと笑って体を横向きにした。
「修学旅行の夜のおしゃべりっていえば、あれだよね。コイバナ」
「…理解した。なんかマッチーがおっさんに見えた」
今時の子供は、修学旅行で好きな人が誰だなんて話はするんだろうか?自分は興味のない話には乗らずにさっさと寝てしまうタイプだったし、男子の間で出る話なんて思春期では下半身がらみばかりだったような気もするが。
「でー、マッチーのコイバナでも聞かせてくれるんですかー」
言ってから聞きたくないと思ったが、松田からは自身の恋愛が語られることはなかった。その代わり、
「俊の話が聞きたいな。実はいつも電車で一緒になる子が気になる、とかないのかな?」
「は?そんな王道パターンないだろ」
ここまで来るとおじさんというより夢見る乙女だなと半ば呆れて、もう寝てしまおうと松田の胸元に潜り込もうとした時。
「今はなくても、そのうち俊の恋愛相談とか受けるのかなー…」
ちゃんとアドバイスできるかな、と話を進める松田のTシャツの裾を、俊介はぎゅっと引っ張った。
「前にもそんなようなこと言ってたけどさ、俺が恋愛とかめんどくさいと思ってんの、知ってんじゃん」
「うん、知ってるよ。でも、この先気持ちが変わるかもしれないし」
なんで、そんなこと言うの。その一言が言いたくて、言えない。
聞こえる鼓動は、どちらのものだろうか。額を松田の肩に押し付けると、髪に優しく手が触れた。
「もしそうなっても、マッチーには相談しねー…」
「あれ、俺信用されてないのかな?」
「されてない。この話はオシマイ。おやすみ」
そう言うと、布団を肩まで引き上げて包んでくれる。こうして松田に擦り寄って眠るのも、いつから当たり前になったんだろう。温かい。心地よい。この腕を、失いたくない。自分だけのものにしたい。
「…マッチー、携帯の着信音消した?」
「ん、鳴らないようになってる」
誰にも、邪魔されたくない。
「ならいい…おやすみ」
少しだけ上を向いて、松田の唇を軽く食んだ。

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