■第10章(3)

翌日、登校するなり机に突っ伏していた俊介に、朝矢がおずおずと声を掛けて来た。
「俊…昨日、ごめんな」
「なんでお前が謝るんだよ」
顔を上げないまま答える。すると今度は木下の声も降って来た。
「…悪かったよ」
「本当にそう思ってんのか」
木下の声を聞くと昨日のことが思い出されて、俊介は歯をぎりっと噛み締めた。もういい、このまま放っておいてくれと思ったが、突っ伏したままの自分に2人が揃ってごめんだの悪かっただの言っている絵面はどうにもよろしくない。クラスメイトが変に思ってざわつかないうちにと、俊介は2人を促してバルコニーに出た。
とは言っても特に話すことはなく、3人並んで沈黙するばかりで。
「あのさ、」
「昨日の話は、もうしたくない。それに俺は朝矢に怒ってる訳じゃないし」
朝矢が声を掛けたのは気遣いだったに違いないが、俊介はやや余計な一言を加えてシャットアウトしてしまった。またしばらく沈黙が続くかと思われたが、間接的に不機嫌の原因だと指摘された木下が口を開いた。
「なあ奈良、お前その人のことどう思ってんだ」
「…他にもっとまもとなこと言う気ねーんなら教室戻れ」
「だからやめろって。てかオミ、マジで教室入ってて」
ぎろりと木下を睨み上げた俊介の前に朝矢が割って入り、木下を教室に押し込んで戸を閉めた。バルコニーの手すりに顎を乗せて遠くを見ている俊介の視界の端に戻って来ると、へへ、と眉を下げて笑った。
「さっきオミが言ったことさ、俺もそう思う」
「…お前も教室戻れよ…」
溜め息が出る。自分はただ、松田という人間を否定されたから怒っただけだ。ああまで激昂するとは自分でも思わなかったが。
何故こんなことになったのか、朝矢にも木下にも話したところで理解できないだろう。当の本人ですら、巻き戻せない時間に振り回されて今に至るのだから。
「俊ってさ、いい奴だけどなんか淡白で、人にあんまり興味とかないのかなって思ってたけど」
「実際そうだけど?別にいい奴でもないし」
「うん、でも昨日あんなに怒ったってことは、その人が特別だってことだろ?」
トクベツ。
そんなことは考えたこともなかった。居心地がいいから一緒にいるだけで、したいからキスをして、抱きたいから抱いているだけ。何がどう特別ということもない、俊介の生活の一部。
「…そんなんじゃねーよ。お前のこと悪く言う奴がいたら同じように怒ると思う」
「えー、そうか?」
「そうだって。あ、もし木下があんまりお前を泣かすようなら俺んとこ来いよ。朝矢だったらエッチしてもいいし、俺」
「なっ…なんだよっ、人が真面目に話してんのに!」
「はいはいっと」
カラ、と扉を開けて教室へ踏み込む。ずっとこちらを見ていたらしい木下に「もういいよ、悪かったな」と一言告げると、俊介は席に戻ってまた顔を伏せた。

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