■第10章(1)

最近、周囲と自分を比べてしまう。
クラスメイトの幸田朝矢は2年間片想いしていた相手を射止めて(というより元々両想いなのを互いに気づいていなかっただけで)着々と関係が進展中の様子だ。
「俺の功績が大きいことを忘れてもらっちゃ困るんだが」
そう言って、今日は学校帰りにファーストフード店でおやつにありついている。朝矢だけでなく彼氏の木下がセットでついて来たのはこの際仕方がない。ほんのり温かいアップルパイを頬張りながら、俊介は面白半分で二人をからかった。
「そういえばさ、アメリカの映画であったよな。ドーテーがパイにアレ突っ込んでってやつ」
「…なんだそれ…」
「知らねーの?パイの感触がアノ感触に似てるっつって、ドーテーの主人公が…」
「ドーテードーテーって言うな、お前マジで恥ずかしい…!」
朝矢が真っ赤になって声をひそめる。木下とはつい先日「初めて」を済ませたらしいが、どう考えても朝矢の方が受ける側だろう。俊介が連呼している4文字には抵抗があるのかもしれない。
一方、朝矢を相手に童貞を捨てているはずの木下はといえば、相変わらず会話には加わらないくせに怖い目をしてこちらを睨んでいた。俊介はフンと鼻を鳴らして、食べかけのパイを木下に向けてやる。
「で?お前の『大事な子』はどうなわけ、アップルパイだったか?」
「……!!!!」
朝矢がいよいよ顔から湯気を出しながら口をぱくぱくさせて木下を見上げた。怒り出すかと思えば、木下も負けじと口の端を上げて、
「食いもんと一緒にすんなよ。こんなもんじゃねえって。残念だなー、お前には一生分からねえだろうなー」
「おいおい偉そうに言ってんなよ。思い出して勃たせてんじゃねーだろーな、変態」
「変態はどっちだ、公共の場でこんな話振りやがって」
「二人ともいい加減にしろよ…!!」
わなわなとした震え声にはっと気づき、木下は申し訳なさそうに朝矢に謝り始めた。お前も謝れ、という視線が飛んで来たので、俊介も朝矢の機嫌を取る。結局おごってもらうはずのアップルパイをおごり返すことが決まって、ようやく朝矢はぶすぶす文句を言うのをやめた。

「つーか、俊だっているんだろ、彼女」
「は?」
一瞬でも松田の顔が浮かんだのはこの際なかったことにしておいて、俊介は朝矢の発言を否定した。10月も下旬だ、たとえ表向きでも「彼女」という存在はもう1年近くいないことになる。
「えー、でも前言ってたじゃん…その…そーゆー相手いるって」
ああ、と俊介の中で合点が行った。確かに朝矢は松田のことを言っている。俊介が以前「夜中までセックスしていて疲れた」と言ったことを指しているのだ。
「あー、まあ、それはそーだけど」
「な、な、俊って彼女といる時どんななんだよ。好きだとか言っちゃったりすんのか?」
さっきからかわれた仕返しのつもりなのか、純粋な目をして根掘り葉掘り聞いてこようとする朝矢。俊介はやれやれと息を吐いて、ジュースのストローを噛んだ。

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