■第9章(2)

その日の夜は、ベッドに入るとすぐに俊介から仕掛けてきた。
「マッチー…しよ」
言うや否や、キスと同時にシャツの裾から手が滑り込んで来て。焦れったく触れる唇にとろんとし始めた時、ベッドサイドで充電中の携帯が鳴り始めた。
「…っ、」
まず真っ先に思ったのは「邪魔された」ということ、それからディスプレイに表示された名前を確認して、松田は俊介に視線を向ける。どうぞ、と目で促され、体を起こして携帯を耳に当てた。
「…はい」
『ごめん、寝てた?』
向こうから、申し訳なさそうな正人の声が聞こえる。まあね、と曖昧に答えて、用件を訊ねた。
『今度の火曜、講義なくなったんだ。でさ、先週からやってる映画、行かない?』
たまには外に出ようと、いわばデートの誘いだった。予想通りもう前売りチケットまで買ってあるというので、断る訳にも行かない。二つ返事で承諾して、早々に電話を切った。

「…ごめん」
携帯の着信音量だけオフにして充電台に戻すと、俊介を振り返る。
「全然。彼氏優先でいいって言ってるじゃん」
話の内容から正人と話していることが分かったんだろう、それでも言葉通り全く気にかける様子のない俊介に、少しは妬いてくれたらいいのに、と思う。これからという時に電話で邪魔をされて、目の前で他の人とデートの約束なんてしているのに。
「デートで映画ってさ、退屈じゃない?俺興味なかったら寝ちゃう」
面白そうに言いながら、俊介は続きをし始める。松田の上を脱がせて馬乗りになると、ふと気づいたように胸元に触れながら呟いた。
「キレイだ…」
「別にそんな、」
「いやそうじゃなくて、まあそうだけど、…彼氏の跡ついてないじゃん、最近」
指摘されて、はっと息を呑む。夏まではあちこちに目も当てられないほどつけられていた跡。それがないのだ。
「してないの?彼氏と」
俊介がこう思うのも無理はないだろう。
「そんなこと、ないよ。ちょっと、仕事の時に見られちゃって…つけないでって言ってるんだ」
本当は、正人とはずっとしていない。一緒に過ごしても疲れているからと言って、隣で寝るだけ。仕事が忙しいのだろうと松田を責めることもせず、さっきの電話だって気分転換になればと外出を持ちかけてくれたに違いない。
「ふーん…」
俊介は相変わらず松田の肌を指先で辿りながら、納得したとは言えないような声を出す。そんな顔で見ないで欲しい。なんとなく嘘を見透かされているような気がして、松田は居心地悪そうに身じろいだ。
「…しないんなら、服着てもいいかな。寒いよ」
「ダメ」
ぎし、とベッドを軋ませて俊介の顔が近づいて来る。この辺りは正人とは違うなと思いながら、松田は俊介の体温に手を伸ばした。

BACK←→NEXT
スピンオフトップへ


長編/短編/お題
サイトトップへ


広告が表示された場合はレンタルサーバーによるものです。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送