■第9章(1)

10月。
松田、俊介、正人、それぞれの4月からの新生活は半年を過ぎた。

俊介は前期を終えて高校生活初の成績通知表を持って来たが、松田の心配とは裏腹に10段階評価で8以上の数字しかならんでおらず、自分の所にいる時はそんな風に見えないのに一体いつ勉強しているのかと首を捻った。
ごろごろしているか、食事か、セックスか。それくらいしかしていないのに。
成績に少しでも危ういところがあればそれを材料に生活態度を諭してやろうとも思っていたのだが、これでは付け入る隙がない。セフレとはいえ対象を松田一人に絞った俊介に比べて、俊介と正人の間でフラフラしている自分の方がよほど乱れているのかもしれない。

はあ、と溜め息をついて部屋の奥を見遣れば、俊介はベッドで丸くなっている。松田の部屋はほぼワンルームのような間取りだから、生活のサイクルが合わない二人が一緒に過ごすにはあまり適していない。休みの俊介が起きないようにできるだけ照明を薄暗くして、音も立てないようにしているけれど。
コーヒーカップを片付けて、ベッドの側にそっと腰を下ろした。
「俊、仕事行って来るから。戸締まりだけ頼むね」
「うん…」
いくら気を遣っても、この時ばかりは起きてもらわないと困る。自宅で寝ていてもらうのは構わないが、玄関の鍵が開いたままでは物騒だ。松田が施錠して鍵を持って行ってしまうと、残った俊介は松田が帰るまで部屋を出られない。だから、松田が仕事に出る時は俊介が寝ていても起こして玄関の鍵を内側から閉めてもらい、その後俊介が出る時には松田が置いていったマスターキーで施錠して、ポストに入れてもらうというルールになった。
合鍵を作るからそれを使っては、と一度提案したのだが、返って来た答えはこうだ。
「いらない。俺、マッチーの彼氏じゃないし」
(そう思ってるんなら、こんなことしないでほしいんだけど…)
ぼさぼさ頭で欠伸をしながら廊下の壁にもたれていた俊介は、松田が靴を履き終わると
「いってらっしゃい…」
そう言って顔を近づけ、キスをねだるのだ。
キスは体を重ねる時だけ、と言った張本人が堂々とそれを破って、今ではことあるごとに唇を寄せてくるのだから。
クラスメイトの恋愛相談に乗っているうちに、そういうことに興味でも出て来たんだろうか?
「…まさかね」
およそ半日後にもう一度この扉を開けた時には、頼まれてもいない留守番をしっかりこなした俊介からただいまのキスを要求されるんだろう。
かちゃりと鍵のかかった音を確認すると、松田は仕事へ向かう為に部屋の前を離れた。

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