■第8章(5)

「あー怠い。腰怠い。眠い。搾り取られた」
「…変な言い方しないでくれるかな。俺だって怠いよ」
深夜に及ぶまでセックスしてそのまま寝てしまったので、翌朝シャワーを浴びて俊介が出て来ると、松田はまだベッドで俯せになっていた。近づいていって、マットレスにぎしりと手をつく。
「本当のことじゃん。マッチーがもっともっとっていうから頑張ったのに」
「っ…、言ってないでしょ」
「体が言ってた」
にやりと口の端を上げて、ベッドから離れる。勝手知ったるキッチンでトースターにパンを放り込むと、脱ぎ散らかした制服を拾い上げた。一度目はシャツを着たまま最後までしてしまったから松田にしがみつかれてしわになってしまっている。新しいシャツを着るために一度帰宅しない訳にはいかず、朝食は速やかに終えて仕度を済ませた。
「いいよ、寝てて」
俊介を見送りに出ようとベッドで体を起こしている松田を制して、露になった肌に目を奪われる。タオルケットをかけた腰から下は見えないが、まだシャワーを浴びていないせいか情事の名残を色濃く残しているような気がして、俊介はごくりと息を呑み込んだ。
「…寝てていいけど、行ってらっしゃいのチューしてもらおっかな」
松田の顔の高さまで屈んで待っていると素直に首を伸ばしてきたので、頭の後ろに手を添えてぐっと唇を押し付けた。抱き合うようにキスをして、離れ際にぺろりと松田の唇を舐める。
「ごちそーさま。行ってきます」
寝不足かつほわほわとした気持ちで授業に臨んだ俊介が午前中のほとんどを机に伏して睡眠に充ててしまったのは仕方のないことであり、それを朝矢に指摘されたので正直に何ラウンドもセックスして疲れていると言ってやり、はしたないだの何だのと真っ赤になって抗議するのを尻目に、昼休みもまた仮眠を取ることにしたのだった。

木下と付き合うことになったものの進展がないと悩んでいる朝矢に早く寝てしまえばどうかと言ったらまた文句を言われたが、今まで俊介が関係を持って来た女たちは「好きだから抱いてくれ」と迫って来たのだ。木下と幸田は男同士だが、互いに想いがあるのなら構うことはないだろう。現に、朝矢と付き合い始めてからの木下の様子をさりげなくうかがってみれば、どことなくそわそわとして、何か意識しているのは明らかだった。
(ったく、ウブだよなあ…)
期末試験後の秋休みにまた関係が進むようにお節介を焼いてやり、俊介は誰もいない自宅に戻ってベッドに寝転んだ。
『自分の世話も焼いてあげたら』という松田の言葉が脳裏を過る。
(世話ったってさ、べつに好きなやつがいる訳でもねーし…)
松田以外は。
脳内で続いた言葉の意味を、その時は深く考えなかった。

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