■第8章(4)

週明け、俊介はある確信のもとに木下を引っ張って行って、朝矢との関係を元に戻すように釘を刺した。元に戻すというよりは、進展させるという方が正しいだろう。
「簡単な方法があんじゃねーの、いっこだけ」
二人の間に足りないのは、互いへの気持ちを正直に打ち明けることだろう。
木下も腹を括ったようで、翌日には朝矢から照れながらの恋愛成就報告を受けることとなった。

「一言好きだって言えばいいだけなのに、世話焼かせるよなー」
「俊…俺がこの前言ったこと、ちゃんと聞いてたかな?」
一仕事終えた気分で飄々と語る俊介に、松田が苦笑しながら紅茶を差し出す。彼に言わせれば、恋愛とはそんなに簡単なものではないという。悩んで悩み抜いて、それでようやく好きの一言を絞り出すのだと。
「俊も人のことばっかりじゃなくて、自分の世話も焼いてあげたら。学校にいないの?かわいい子」
「べーつにー」
ソファの背もたれに頭を乗せて天井を見上げる。ごく単純に、セックスできるかできないかで判断するのであれば有りだと思う女子はそれなりにいる。だからと言って今の俊介は誰彼かまわず関係を持つのはもう面倒だと思っていたし、それに。
「彼女とかいらない。マッチーがエッチさせてくれるし」
「…俊、彼女はそういうことのために作るんじゃないんだよ」
「だからいらないって」
何度も体を重ねている松田から恋愛しないのかと言われるのには、少し苛立ちを感じた。
隣に座る松田の膝の上に乗り、顔を近づける。もはや反らされることも引かれることもない、閉じられた唇に自分のそれを落とす。ちゅ、と吸って離すと、至近距離から話しかけた。
「ひさしぶりだね」
夏休み以来、セックスはおろかキスもしていなかった。一度唇を重ねれば抑えていた欲がむくむくと沸き上がって、松田のシャツの裾から手を差し入れて肌に触れる。松田は一瞬息を詰めて、吐き出すようにふっと笑った。
「なんだ、俺にはもう飽きちゃったのかと思った」
「そんっ…別に、」
飽きたわけではない。とも言えず、セックスのために一緒にいるわけではない。とも言えず、初めて発せられた松田からのやや挑発的な言葉に、俊介はどう切り返したら良いか分からずに口を噤んだ。
「別に、期末近いから勉強優先してただけだし」
「勉強してるところなんてちっとも見ないけどなあ」
「…うっさい」
思いつくままに言い訳をしてもお見通しとばかりに笑う松田にこれ以上揚げ足を取られないように、俊介はキスで松田の口を塞いで体をまさぐった。はあ、と熱い息を吐く松田の服を剥ぎながら、そういえばと訊ねる。
「マッチー、明日休みだよね。彼氏んとこ行かないの」
「ん…、あっちも試験なんだって。誰かさんと違って真面目に勉強してるから」
「あっそ」
それならいいかと遠慮なく押し倒して、若い体がもうだめだと訴えるまで目の前の肢体を掻き抱いた。

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