■第8章(2)

結局、松田の短い夏休みを全て一緒に過ごした訳だが、4日間とも朝から晩まで隣にいて、一度もセックスをしなかった。
特に墓参りから帰ってきてからは、松田はどことなくぼんやりしているようにも見え、あまり笑わない。久しぶりに母親の故郷に行き色々と思い出すことがあって、ホームシックに似た状態なのかもしれない。
「俺のせい…でもあるのか…」
寂しいと言って泣いた松田の姿を思い出す。そんな様子を見ていて、とても抱こうという気にはなれなかった。
「あー、バカか俺…」
一般家庭に育った人間が、家族を失って寂しくない訳がない。自分の無神経な発言で松田を傷つけたのだと今さら後悔して、俊介は枕を抱えて頭を埋めた。
その後何度か顔を合わせる度に機会を伺ったものの、蒸し返すのもどうかと思ううちに謝ることができなくなってしまった。


高校の夏休みが明けて久しぶりの登校をしてみれば、仲良くなったクラスメイトの幸田朝矢はできたばかりの彼女に振られていたらしい。
「なんだよ、それなら遠慮なく遊びに誘って良かったんだな」
「宿題残っててそれどころじゃなかったって」
俊介は休みに入るとすぐに問題集などの宿題は片付けてしまうのだが、朝矢はぎりぎりまで遊んでいるタイプらしい。誰と遊んでいたのかとは聞かなくとも分かり切ったことだった。
「毎日登下校も一緒で、学校でも同じクラスなのに、休みもつるんでんのかよ。よく飽きねーのな、お前ら」
朝矢は、もう2年の付き合いになるという木下和臣といつも一緒にいる。というより、木下が朝矢を側に置いて離さないといった風に見えた。バリケードを張っているというか。そう見えるからこそ、木下が朝矢を差し置いて先に彼女を作ったと聞いた時は少なからず驚いたものだ。その木下も朝矢と揃って振られたらしいのだが。
「ま、彼女いる奴と遊ぶのも気使うし、よかったじゃん、お友達もご一緒なこって」
俊介、朝矢と並んださらに隣でぶすぶすと仏頂面をしながら二人の会話を聞いている木下にも向けて、皮肉めかして言ってやる。
実際に恋人がいる相手には気を遣うものだ。松田との付き合いでそれはよく分かっているつもりだ。この二人は恋愛よりも友情を取った…というべきか、端から見ていて呆れるほどに互いを優先しているように思える。
特に木下だ。俊介が朝矢に声をかける度に、鋭い視線を向けてきて。
(なーんで俺が仲良くなろうとする奴には、なんかオマケがくっついてんのかね…)
別に盗りゃしねーっつの。
今もなおその視線を感じながら、俊介は肩を上げて溜め息をつく。
「ま、仲良くやんなよ。友達は大事にしないとな」
自分にも言い聞かせるように告げると、踵を返してその場を離れた。

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