■第7章(3)

俊介はといえば、入学してからの4ヶ月で高校にもすっかり馴染んだらしい。
中学生の頃には聞くことのなかったクラスメイトの話もよくするようになったし、仲の良い友人もできたようだ。松田がプレゼントした手帳がきっかけで話すようになったというその友人を俊介はいたく気に入っているようで、時には話を聞きながら嫉妬すら覚えるほどだった。
「夏休みは、遊んだりしないの。その幸田君とは」
「あー、どっか行こうとは言ってたけど、あいつ彼女できたし、いっつもくっついてる奴いるしなー」
聞けば中学生の頃からの友人と一緒に入学してきた幸田朝矢君は、その子と登下校から休み時間までいつも一緒にいるらしい。最近できたという幸田君の彼女よりもそちらの方にライバル心を燃やしているらしい俊介の様子は、かわいらしくもあった。
「俺、中学からの知り合いで友達なんて、マッチーだけだよ」
まだ卒業して4ヶ月しか経っていないのにそんなことを言う俊介に出来た新しい友人の存在は、何をするにも冷めた目をしていた俊介を年相応の男の子に戻してくれているように思えた。

「連絡、してみたら。俺にはくれるじゃない」
今だって、俊介からの電話を受けて話しているのだ。電話の向こうで、俊介が渋る声がする。松田は笑って、携帯を持ち替えた。
「大丈夫だよ、今度電話してごらん、ね」
「わかったよ…で、マッチーは休み、決まったの」
むくれ声で予定を問う俊介に、松田はわざと思わせぶりに返答した。
「8月の最終週に4日間。お墓参りで2日使っちゃうから、残り2日は家にいるかなあ…」
「ふうん…」
何か考えているのか、俊介はそう言ったきり黙り込んでしまう。あと一言、聞いてほしいことがあるのに。松田は焦れて、自分から情報を補足した。
「彼の合宿とかぶっちゃってね、会えないから一人だし…」
向こうで、俊介が息を呑んだ…ような気がした。
「俊、うちに来る?」
そうけしかけてみれば、返って来たのは生意気な声。
「なに、マッチー寂しいんだ?」
「ふふ、そうかもね」
こうなって、俊介がもう来ないと言うことはないだろう。
結局電話を切る頃には、もう何年も学校行事以外で旅行をしていないという俊介を墓参りにも連れて行くことで話がついていた。母の故郷は四季の自然が美しく、食べ物もおいしい。いつか大切な人と来たいと思っていた土地でもあった。
「ホテルと新幹線、予約しなくちゃ」
松田はうきうきと立ち上がり、壁にかけたカレンダーにも、休みの期間にペンで赤い印をつけた。

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