■第7章(1)

GW以降、松田は俊介と互いの部屋を行き来することが多くなった。
仕事の休みとその前日だけは習慣を変えずに恋人の正人と過ごしているものの、それ以外は少なくとも週に2日は俊介との時間があった。
食事をしながらその日あったことを話し、俊介が求めれば体を重ね、その後は一緒に眠った。もう、俊介の求めに戸惑ったり抵抗したりという気は全くなくなっていた。
(これが「割り切る」っていうことなのかな)
自分がそれを理解できるとは、到底思わなかったのだけれど。俊介にとっては気持ちのない行為なのだと分かっていながら、セックスの時だけキスをするという決まりのようなものが松田を縛っていた。
一度そうなってから、俊介は松田を求める時にはまず唇を触れ合わせてくるようになった。頬に、耳にフェイントをかけてから、唇へ。何度もキスをしながら指をつないだり、抱き合ったり、そのままソファや床で事に及ぶこともあれば、ベッド行こ、と誘われて場所を変えたり。つまりは、行為自体はまるで恋人同士のそれなのだ。
「俺たちさ、カラダの相性いいよね」
俊介がそう言うのを、松田も理解していた。触れられ続ければ一晩に何度も達することもあり、俊介もそんな松田とセックスするのを愉しんでいるように見えた。

やはり体だけ、なんだろうか。
初めて一緒に寝た時、夜中に喉が乾いて水を飲む為にベッドを出ようとした松田を、大人しく眠っていたはずの俊介が引き留めた。
「…どこ行くの」
「ごめん、起こした?喉渇いたから水、もらうね」
ベッドを揺らさないよう床に降り、部屋を出ようとした松田に、背後からもう一度声がかかった。
「帰らないよね」
台所でコップ一杯の水をあおった松田が、急いで部屋に戻ったのは言うまでもない。俊介はベッドで丸くなって、それでも目だけは開けて待っていた。松田が布団に入ると、眠そうな声でこう訊ねてきた。
「くっついてもいい?」
「…、いいよ。おいで」
寂しがって一人寝を嫌った小さな妹が、よくこうして松田の布団に潜り込んできたことを思い出す。擦り寄ってきた体を抱くように腕を回せば、愛しさで胸がいっぱいになった。
それ以来、俊介は時折松田に甘えた仕草を見せるようになったし、一緒に寝る時はどちらともなく体を寄せ合うようになった。
そんな日々が、もう3ヶ月近くなる。
心の距離も近づいていると思うのに。そう思っているのは自分だけなのだろうか。
鏡に映った自分の体には、正人が残した印しかない。俊介は「痕跡を残さない」と言ったことを忠実に守って、松田の体中にキスをしても跡だけは絶対につけなかった。どんなに行為を重ねても、松田の中に精を吐くこともない。
俊介がここにいなければ、一緒に過ごした証はどこにも残されていないのだ。

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