■第6章(5)

翌朝、俊介は鳴り響くアラームに目を覚ました。
「…ん」
無意識に手を伸ばした俊介よりも先にそれを止めたのは松田で、ぼんやりした視界の中で彼が上半身を起こすのが見えた。着ているのは、俊介が部屋着にしているTシャツとジャージ。
「俺仕度したら行くから、寝てて」
小さく囁いて、そっとベッドを降りる。
俊介はシーツの上をもぞもぞと動いて、松田の体温が残る場所に身を寄せた。

初めて、夜を共に過ごした。同じベッドで。
セックスが終わると松田はすぐに起き上がって体を拭い、床に落ちた服を拾い集めて身につけようとした。俊介はそれを取り上げて後ろにやり、
「待ってよ。やるだけやってすぐ帰るなんて、ひどくない?」
今まで自分がしていたことは棚に上げて、皮肉めかして言ってみる。
「それにさ、そんな『さっきまでヤってました』みたいなエロい顔して歩いてたら、襲われちゃうかもよ?」
「俊…俺、明日も仕事あるし」
「うちから行けばいいじゃん。泊まってけば」
自分でも意地になっていたと思う。ただ、松田をこのまま帰したくなかった。抱き合って感じた温もりを、すぐに外に出してしまいたくはなかった。
結局根負けした松田にシャワーを浴びさせ部屋着を貸してベッドに押し込み、自分も隣に潜り込んで朝を迎えた。

そういえば、と思い起こす。
一度松田が水を飲みに離れた時以外は、夜中に目を覚ますことはなかった。いつもは何度も目が覚めて、ちっとも眠った気がしないのに。
「…よっと」
久々に熟睡できたおかげか、休日の早起きでも徐々に頭がはっきりしてきた。自分もベッドを降りると布団を整え、カーテンを開ける。空は晴れ渡り、朝日が眩しかった。
洗面所に行くと、さっき部屋を出るときに持ち出したのか、俊介が返すはずだった服を着て、既に身支度を整えた松田の姿があった。鏡越しに俊介に気づくと、振り返って笑いかけてくる。
「おはよう」
「はよ。…もう行くの」
すぐにでも松田が出て行ってしまう気がして、挨拶もそこそこに訊ねてしまう。松田は少し申し訳なさそうな顔をして、一度帰らないと、と言う。なんで、とか、どうしても?とか、聞きたいのに聞いてはいけない気がして言葉が出て来ない。黙ってしまった俊介に、松田は少し考えてこう続けた。
「昨日の服、仕事場には持って行けないから家に置いていこうと思ったんだけど…俊、預かってくれる?」
それならもう少しゆっくりできるけど、という松田をリビングに引っ張って行き、俊介は2人分のコーヒーを淹れる為に湯を沸かし始めた。

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