■第6章(1)

俊介は短く呼吸を繰り返す松田の口から、唾液に濡れた指を引き抜いた。かかる息が熱い。
「なに、感じた?今の」
濡れた指をちゅっと吸って、松田の唇に触れる。弾力のある下唇を軽く押した。ここに直接吸い付いてみたい衝動に駆られる。一度だけ唇を触れ合わせた、高校入試の日の朝を思い出した。あの時は玄関先で、松田の驚いた顔が見えた時には自分は踵を返して扉を閉めていたのだ。帰宅してから思った。松田は他人のものなのに、自分は何をしたのかと。それが今、自分は他人の所有印がついたこの男を組み強いて、肉体を蹂躙しようとしている。
…ただ、この状況でキスをするのは躊躇われた。強引にセックスに持ち込んではいるものの、松田は「付き合うというなら考える」というほど真面目な性質だ。キスも愛情表現のひとつとして大事に考えているのは想像に難くない。体だけだと自分から言っておいて、松田の心にまで踏み込むようなことは出来そうになかった。
(意外とチキンなんじゃん、俺)
自嘲気味な笑みが口の端に浮かぶ。松田の唇を弄っていた指を離して、ズボンのベルトに手をかける。
「脱がすよ」
「あ、」
何か言われる前に、下着ごと引き下ろして床に捨てる。片足ずつ丁寧に靴下まで脱がせて、松田の裸体を見下ろした。
「…キレーだね、カラダ」
無意識に賞賛の言葉が口を突いた。つ、っと指先で鎖骨の中心から一直線に撫で下ろすと、閉じた膝がひくりと震える。開かせてみれば、
「濡れてるね。興奮してんの?」
見たままを告げると、松田は暗い中でも分かるほどに頬を染め、手の甲で口元を隠す。泣きそうに歪んだ表情を隠そうとしているようにも見えた。
「そんな恥ずかしがらなくてもいいのに。『そう』なるためにしてんだからさ」
言いながら、自分の前も寛げる。全部脱いで自分も裸になり、開かせた脚の間に腰を入れた。我慢できずに自身を軽く扱いてみると、先端に透明な粘液が滲んでぷつりと玉を作る。
「ほら、俺もこんななってるし」
いいじゃん、気持ちよければ、そう言ってまた松田に覆い被さる。唇にキスできない代わりに、うなじを吸った。跡はつかないように。
「ん…っ、あっ」
少しでも身じろぐと中心が肌に擦れる。松田が嫌がるのに気づいて、俊介はわざと腰を上下に動かした。
「あ、あ…っ」
耐えるためなのか、松田がぎゅっと俊介にしがみつく。
「ん…、きもち…」
昂ったものを松田に擦りつけ、快楽にぼんやりし始めた頭の片隅で、そういえばセックスの時に裸で相手と抱き合うなんて初めてだ…と俊介は思った。

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