■第5章(6)

とくん、とくん、と、互いの心音が静かに聞こえる。
「…なに?マッチー、ソノ気になった?」
特に松田の腕を振りほどくでもなく、抱きしめられたままで俊介が笑う。
「そ…っ、」
そんなんじゃない、と言いかけたが、背中に回った俊介の腕にぐっと力が入って身が竦んだ。抱きしめるというより、逃がさないという力の入り方。どうにかしようと身じろいだ松田の耳元に、俊介の囁きが吹き込まれる。
「そーいえば、してないね…エッチ」
「…!」
ぞく、と鳥肌が立ち、松田は俊介から離れようと腕を突っ張る。意外にも簡単に俊介の力は緩んだものの、今度はシャツの襟をぐいっと掴まれた。
「ま、してないのは俺だけで、マッチーは彼氏とお楽しみみたいだけど」
襟を引かれて露になった鎖骨に何があるのかは、見なくても分かる。松田は上から隠すようにそこを押さえ、唇を噛んで下を向いた。
…見られたくなかった。こんな印を。関係を知られているとはいえ、他の男との情事を直接肯定するようなものなど。
すぐ側で、俊介がくくっと喉を鳴らす。
「別にそんな顔しなくたっていいのに。彼氏優先でいいって言ったでしょ、俺」
下げた視線の先に見える俊介の足が、床を擦るように前に出る。
「でもさ、あんまり俺をほったらかされちゃうと…」
一歩、また一歩と後ずさっては詰められ、ベッドにぶつかってそれ以上下がれなくなる。まずい、と思ったのも束の間、俊介がそのまま前に出たために松田はバランスを崩して上半身からベッドに倒れ込んだ。
仰向けで真上から蛍光灯に照らされるはずの自分には俊介の体で影ができており、顔の横に手を突かれるとぎしりといやな音が鳴った。
「困るんだよね、俺はマッチーしか相手いないんだからさ」
「っ…」
その言葉に、松田は息を呑む。連絡すら取ることのなかったこの数週間、俊介は他の誰かと関係を持つことはなかったというのか。
胸の奥がちりちりと焦げるような息苦しさに、松田は思わず瞼を閉じる。
「ね、しようよ。前みたいに痛くしないよ?」
閉じた瞼を親指でなぞられて薄く開けると、俊介はもう一度、ね、と言って笑う。
セフレなどという名前のついた関係でなければ、愛して抱いてくれるのなら、こんなに迷わないのに。
黙っている間に、俊介の指先はシャツのボタンを外し始めていた。
「俊…、」
止めようと押さえた手は逆に握り込まれ、開かれたシャツの隙間からちゅっと肌を吸われる。
「あ…」
喉が震え、松田は再びぎゅっと目を閉じた。

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