■第5章(2)

世間ではゴールデンウィークが近づき、松田も徐々に多忙な生活に慣れつつあった。
店舗の休日は平日、その休みもレッスンに費やされることがほとんどで、正人と日中デートできることはほとんどない。きちんと休めたのは「最初ぐらいは」と店長が計らってくれた1回だけ。それでも休日前夜には正人の部屋へ赴き、求められるままにセックスをして、限られた時間を出来る限り一緒に過ごすというのが習慣になっていた。
「ナオ、疲れるだろ?俺がナオんとこ行くって」
「ううん、いいんだ…家にいると仕事のこと考えちゃうし、出掛けた方が気分転換にもなるから」
正人の気遣いにも松田は譲らなかった。少しでも外出を、という気持ちはもちろんあるし、いつ俊介が来るか分からない自宅で正人とセックスしたくなかった。
「松田の匂い」を敏感に感じ取った俊介に、よもやとは思うが他の男との事後の残り香など嗅がせたくなかったのだ。
(これじゃあ、本当に浮気でもしてるみたいだ…)
思わずはあ、と溜め息をつくと、正人が額にキスをして覗き込んで来る。
「だったら、俺といる時ぐらい仕事のことは忘れろって。な?」
「ありがとう。そうする」
俊介のことも、正人といる時は考えないようにしたい。
松田は正人の裸の胸に擦り寄った。

「あのさ、GWなんだけど、俺サークルの合宿行って来るから」
正人が切り出す。確かワンダーフォーゲルという活動をするサークルだと聞いていた。松田にはもちろんGW中の休みはないし、体を動かすのが好きな正人には自分に構わず楽しんできてほしいと思った。
「体育会系の合宿かあ…正人、新人だからしごかれるんじゃないの」
「もうしごかれてるって。でもそのおかげで結構筋肉ついてんだぜ、ほら」
正人がぐっと作ってみせた力こぶを、松田は笑いながら叩いてやる。ベッドの中でじゃれ合い、終いにはがばっと抱きしめられた。
「正人…」
…最近、正人と触れ合う度に胸がちくちくと痛む気がする。
自分が想いを伝えたことで、元々ノーマルだった正人をこちら側に引き込んでしまった罪悪感が初めはあった。それが薄れたこの頃は、そんな自分が別の男にも気を惹かれているということ。
正人のことは愛している。でも。
この人を裏切らないためには、どうしたらいいのか。
「正人、好きだよ」
確かめるように口に出しても、俊介の顔がちらついて消えなかった。

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