■第4章(2)

中学の卒業式と同様に一人で出席した高校の入学式は滞りなく終了した。
式典後のホームルームで説明されたオリエンテーションの予定などを手帳に書き写し、短い初日を終えて解放感に満ちた教室内を見回す。
一人ずつ行った簡単な自己紹介を聞いたところでは、学年に何人かいたはずの中学の同級生は、同じクラスにはいないようだった。
(ま、その方が気楽だけど)
新しい環境なら、自分を知らない者のみで構成された組織で一から関係を作って行く方が面白い。まして中学時代に外野からあまり良い評判はなかったであろう自分には、都合が良いとも言えた。

「あのー…」
顔を向けているのと逆方向から声をかけられ、振り返ると小柄な男子が遠慮がちにこちらを覗き込んでいた。
「ん…何?あー、えーと、」
「あ、俺、幸田朝矢。んでこっちは中学んときからの友達で、木下和臣っての。よろしく」
名前を思い出せずにいると、その人物は丁寧にも後ろにいる同伴者の名前まで紹介し、人懐っこく握手を求めてきた。それに応じ、自分も名前を改めて相手に告げる。
「で、何か用?」
できるだけ冷たくならないように気をつけながら聞いてみれば、幸田と名乗った男子は俊介の机の上に置かれた手帳を指差した。
「それ。かっこいいなーと思って。どこのか聞いてもいい?」
「あー…ごめん、これ知り合いからもらったんで、分からないんだ」
「そっかー。こっちこそ急にごめん、じゃ明日からまたよろしくなっ」
「おう、また明日」
相手につられて手を振り、二人が見えなくなったところで手元の手帳に視線を落とす。
(なーんかマッチーのおかげで友達できるかもよ、俺)

「いらっしゃいませー」
俊介が自宅に戻らず制服姿のまま向かったのは、念のためと教えられていた松田の勤務先である美容院だった。店の奥で床を掃いていた松田が、驚いた顔をするのが見える。
カットお願いします、と告げて待合いの椅子に腰掛けたところで、床掃きを終えた松田がやってきた。
「俊、どうしたの」
「髪切ろうと思って。ついでにマッチーが働いてるとこ見ようと思って」
「あれ、松田君の知り合い?あー、もしかして」
小声で話していると、「店長」と書かれた名札をつけた30代くらいの男が顔を出した。松田から聞いていたのか、「カットの練習台」として俊介を認識しているらしい。
「うーん、綺麗に切ってあるけど確かに伸びてるね。よし、松田君のお得意さんなら俺が丁重におもてなししよう!シャンプーは松田君がやってね。じゃあどうぞ〜」
目に見えて緊張している松田に苦笑しながら、俊介は案内されたシャンプー台に腰掛けて、笑ったままの顔を隠すようにガーゼをかけられた。

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