■第4章(1)

高校の入学式を2日後に控えた夕方、俊介は自室のベッドに寝転がり、所在なく天井を眺めていた。
「あー、……暇」
中学を卒業してから、ずっとこの調子だ。高校での授業に備えて参考書をめくる他は、特にすることもない。テレビをつけても改編期の特番ばかりで、見る気がしなかった。
「トモダチいなさすぎじゃね、俺」
普通なら休みともあらば友人たちとあちこちに出掛けるものだが、俊介は誰とも必要以上の付き合いをしない学校生活を送ってきたせいか、同級生たちから遊びに行こうと声がかかることもなかった。
「せっかくもらってもさ…真っ白だし」
枕元に手を伸ばし、4月始まりの真新しい手帳を開く。
何ひとつ書き込まないのも、と思い、とりあえず決まっている入学式の予定だけ記入した他は、後にも先にも何もなかった。
一枚めくると、早速やって来るゴールデンウィークに思わず眉が寄る。予定のない休日ほど時間を持て余すものはない。多すぎるとも思える休みに、俊介は溜め息をついて手帳を閉じた。
「…あ、あったじゃん、予定」
ふと何かを思いつき、起き上がって再度手帳を開く。勉強机からペンを取ると、もう過ぎている数日前の空欄に短く書き込んだ。

『マッチー メシ』

「………」
仕事帰りの松田を訪問した時のことだ。考えてみればここ数ヶ月、他人が絡んだ外出は松田以外にないのだ。いっそ手帳の予定はすべて松田の名前で埋め尽くしてやろうか。
「バカじゃねーの、俺」
手帳を放り出し、俊介はまたベッドに身を投げて固く目を閉じた。

(なーんであーなっちゃったんだろ)
勢いで、関係を持ってしまった。一度の過ちで済ませればよかったのに、その関係を続けないかと言ってしまった。
(確かにキモチ良かったけど、さ)
久方ぶりのセックスだったからか、抱かれ慣れているであろう松田の体のせいか。
本当に心地よいのは松田と過ごす何の変哲もない家庭的な…自分の家では得られない時間なのであって、性欲を満たす目的で一緒にいるのではないはずなのに。
それに、松田に告げたような「他に相手を探して適当にセックスする」というつもりも、今の俊介には毛頭なかった。
きっと、そう言えば松田との繋がりが切れないだろうと分かっていたから。
松田が仕事を始め、自分が高校に入学すれば、もう今までのように松田の部屋を訪れる理由はほとんどなくなるだろう。
「もしかして俺、寂しーワケ?」
乾いた笑いが、同様に乾燥した部屋の空気に混ざって消える。
「バカ言ってんじゃねーっつーの…」
一人には慣れている。
話し相手もおらず、こうしてベッドで一人思案することも、子供の頃から続けてきたことだ。
最近は松田のことばかり考えている。
(あ…入学式の前に、髪切ってもらえばよかった)
今夜、また松田の部屋に行ってみようか。
連絡してみようかと携帯を探した手は、しばし彷徨った後にぽすりとシーツの上に落ちた。

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