■第3章(6)

翌日もその翌日も、俊介は来なかった。
おいでと声をかけるなり食事を持って行ってやることも出来たが、体の関係を求められている以上、おいそれとこちらから近づいてはいけないような気がして、考えあぐねていたのだ。
曲がりなりにも母親が長期不在である俊介の保護者代わりにならなくてはという思いがある松田には、何を優先すべきかということに対して葛藤があった。
(思春期の子を持つ親って、こんな気分なのかなー…)
自分が俊介ぐらいの年頃は、母親が亡くなるまでは両親とも上手くやれていた自信がある。母親の死後、自分を抑え込んで、それを発散するように、兄のように慕っていた男と関係を持って…
「そうだ……」
捨てられたような終わり方だったけれど、彼の存在は当時の自分には救いであったことに変わりはない。
自分も同じように、俊介の救いになれるかもしれない。
自分がしてもらって嬉しかったこと。
側にいてもらう、話を聞いてもらう、手を握ってもらう、抱きしめてもらう。
おそらく俊介には全てが足りていない。自分が与えてあげたいと思うものの、素直に受けてくれるかどうか。それに、俊介に接するにあたっては、自分の気持ちは隠し通さなければならなかった。
…自信がない。それでも自分が何とかしなくては。

働き始めて最初の休日、まだ大学の講義が始まっていない正人と共に過ごした。俊介のことは気になったが、恋人との約束をフイにする訳にも行かない。正人と俊介、どちらとの時間もバランスよく確保するにはどうすれば良いかと考えかけて、これではまるで二重生活だと自らを笑った。
「まいちゃん、元気?仲良くしてる?」
正人の妹は俊介の元同級生(表向きは交際相手)だ。正人が俊介と同い年の子とどう接しているか、それだけでも聞いてみたかった。…もちろん、自らが俊介との接し方の参考にするためとは言えなかったけれど。
「あのマセガキ。なんか反抗的っていうか、隠し事が増えたっていうか」
悪態をつきながらも【兄の顔】になる正人を微笑ましく思いながらも、やはり同様の難しさを感じているであろうというのは見て取れた。
「うーん…年頃の子ってみんなそうなのかな」
「そんなもんだろ。誰だって親兄弟に言えないことの一つや二つ…な?」
そう言って、正人は松田の腰に腕を回す。
「俺だって今はナオのこと家族に言ってないけど…自分の力で生活できるようになったらちゃんと紹介するから」
「それは嬉しいけど…ちょっと話がすり替わってない?」
抱き寄せられ、近づく顔に少し引いたのは単に反射的なもので。触れ合った唇に応えて目を閉じるのに、そう時間はかからなかった。
「ナオ…」
ペアリングをした指を、正人が愛おしそうに撫でる。胸の痛みを紛らわすように、松田は強く正人の背を抱き、肩口に顔を埋めた。

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