■第2章(4)

あと一週間ほどで桜が開花するとはいえ、まだ冬を思わせる寒さの中、松田の部屋に招かれたのは都合がよかった。
自分の家にいても暖は取れただろうが、同じ室内でも一人でいるのはどうも寒々しく感じられてならない。ソファに腰掛けてほっと息をつくと、温かい紅茶を注いだカップが運ばれて来た。
「マッチーももう卒業したの?専門」
「うん、中学や高校よりは卒業式早いからね。たまに学校行って、少し練習させてもらってるけど」
4月から社会人としての一歩を踏み出す松田を、少しうらやましいと思う。一時的に一人での生活をするとはいえ、自分はまだ18歳未満であり、何をするにも大人たちの存在がついて回るのだ。
「はい、俊。おめでとう」
松田が差し出した四角い箱には、大人っぽい上品な包装がされていて、一見してプレゼントと分かるリボンがかけられていた。
開けて良いかと問えば笑顔でどうぞと促され、俊介は久方ぶりに他人からのプレゼントの包みを開ける楽しみを味わった。
包装紙が破れないように丁寧に開けると、
「合格祝いと卒業祝いを兼ねてだけど、これから必要かなと思って」
箱の中からは革表紙の手帳。松田らしい、センスの良い物だった。
「マッチー、いいの、こんな高そうなもの」
さすがに俊介も恐縮してしまう。
「気にしないで。俊には何度もカットの練習させてもらったし、すごく助かったから感謝してるんだ」
それだけの理由で、こんなプレゼントを貰ってしまって良いものだろうか。
俊介が恐縮している理由はもう一つあった。
「俺、マッチーに何も用意してないし」
「いいよ、俺は俊に何かしてあげた訳じゃないし、仮にもお兄さんだからね」
年の離れた妹がいるという松田ならではか、自分はお兄さんだと言う様がよく似合っていた。それでも、俊介にはいまいち腑に落ちない。松田とは、ある程度対等の付き合いをしたいのだ。
俊介は何か欲しい物はないのかと、松田に訊ねた。
「んー…ない訳じゃないけど、今は貰えないかな」
意味ありげにはぐらかす松田に焦れて、俊介は今受け取ったばかりの手帳をぐいと差し出し、強硬手段に出た。
「俺からも何か贈らせてもらえないんなら、これは受け取れない」
「困ったなあ…」
そう言いながらも笑みを絶やさない松田。
何かなにかとしつこく聞かれると、笑顔のまま俊介に向き直った。
「じゃあ、俊の制服の第二ボタン、もらおうかな」
俊介の胸元…もう着ていない制服の第二ボタンのあった辺りを指差して、悪戯っぽく笑う。
「…どういう意味」
訝し気に聞いても、やはりはぐらかすように笑っているだけ。
「からかわないでよ」
「そう思う?」
松田の瞳の奥にあるはずの真意が、見えない。

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