■第2章(2)

試験の後は、松田の部屋には寄らなかった。
面接も含めて午後早くには終わってしまったこともあるし、朝のことが何となく後ろめたかったのもある。
(なーんであんなことしたかな、俺)
松田には恋人がいるというのに。
そんな気はまったくなかったが、からかったと思われただろうか。
期せずして松田の性指向を暴いてしまったあの時の、どこか怯えたような表情が脳裏を過った。
確かに俊介にとっては身近な人物で同性愛者というのは松田が初めてだったが、かと言って偏見を覚えた訳ではない。現に松田の恋人である男は元々そうではないらしいし、自分に置き換えてみても、松田に誘われれば別に抵抗なく受け入れられるだろうと思えた。
「…って何考えてんだ、俺は」
鞄を放り投げて横になっていたベッドから起き上がってポケットを探り、渡されたお守りを取り出してじっと見つめた。
…このお守りだって、俺じゃなくて彼氏に渡してやればいいのに。
松田がこういうことをするからいけないのだ、と、自分の行動に一応の言い訳を見つける。
溜め息をついて、試験疲れも手伝ってか襲ってくる睡魔に呑み込まれるまま、俊介は再び横になって目を閉じた。

その後しばらく、俊介が松田の部屋を訪れることはなかった。

俊介が松田に久方ぶりの連絡をしたのは、卒業を間近に控えた3月半ばになってからだった。
第一志望の私立校に合格した俊介はもはや残りの中学校生活を無難に過ごすだけで、松田の部屋で勉強する必要はなくなった。それに、おそらく同時期に大学受験をしているであろう松田の恋人、さらには松田自身への気遣いもある。
しばらくは自分が邪魔をせずに、気兼ねなく二人で会える時間を作ってあげた方がいいだろう。
(俺はマッチーの彼氏じゃねーし…)
それでも再び連絡を取ろうとしたのは、お守りを返すどころか合否すら知らせていなかったことにはたと気がついたからだ。
携帯の着信履歴を見れば、ここ数ヶ月は母からの着信以外は松田の番号しか記録されていない。
それを呼び出し、発信ボタンを押す。
1回、2回、3回…4回目の発信音が鳴る前に、電話の向こうから松田の声が聞こえてきた。
「もしもし、俊?よかった、どうしたのかと思ってたんだ」
「あー…ごめん。なんか受験終わったら疲れちゃって。マッチーのお守りのお陰でちゃんと受かったから」
「ホントに?よかったー…、俺から聞けないし、それが一番心配だったんだよ」
電波に乗って運ばれた声でも安堵しているのが十二分に伝わってきて、俊介は悪いことをしたなと罰が悪くなった。
「俊、今度時間がある時にまたおいで。お祝い用意しておくから」
自分だって卒業と就職でお祝いされる側のくせに、と思ったが、松田の性格ならば自分のことはそっちのけで他人を気遣うことができるのだろう。
約一ヶ月ぶりの再会に心躍る俊介だったが、そこで後悔をすることになる。

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