■第1章(4)

見るからに人の好さそうな松田のことだ。軽い気持ちで付き合ったりセックスしたりなんて、考えたこともないんだろう。
どこかの女の子を優しくエスコートする松田の姿が容易にイメージされて、俊介は無意識に眉を寄せた。
今どき、どこの純粋なお坊ちゃんだか。
あるいは恋に恋する女の子といったところか、松田が俊介のしていることを信じられないと言うのなら、俊介にこそ松田の考えが信じられなかった。

ちょっとからかってやろうか。

そんな悪戯心が頭を過り、俊介は反らした首を松田の方に向けて子供らしくない笑みを浮かべた。
「マッチーがそう言うならやめるよ。その代わりさ、」
体の割に長めの腕を松田の肩にかけ、顔を寄せる。
「マッチーが俺と『遊んで』くれんの?」
そう口にした瞬間、松田の肩が大袈裟なほどにびくりと反応した。
含みを持たせて言ってやったから、かなり揺さぶりをかけられたに違いない。してやったりだ。
松田の反応に満足した俊介が冗談だと手を離そうとした時。
「…な、なんで知ってるの」
青ざめた顔で、松田が小さな声を出した。
「俺言ってないよね、あいつ…あいつが言った…?」
話している間にも、松田の顔色はみるみるうちに悪くなって行く。
気分が悪そうに口元に手を当てて下を向いた松田を見て、俊介はまさかと目を見開いた。
「マッチー、マジで…?」
思わず口にすると、松田ははっと顔を上げる。しばらく互いに驚いた表情のまま見つめ合い、耐え切れない様子でまた松田が下を向いた。
その沈黙が、俊介の脳裏を過った可能性に対する肯定であることは、ほぼ間違いなかった。

つまり、松田は男を相手にしている。
「あいつが言った」とは、俊介の彼女の兄がそのことを知っているということか、あるいは。

「あのさ、もしかして」
「俊、ごはん食べよう。冷めるよ」
遮るように立ち上がった松田の手が震えている。
水でも取りに行くのだろうか、キッチンに向かう松田を追いかけると、俊介は自分より少し背の高い松田に後ろから抱きついた。
「ごめん、マッチー。俺言わないから。誰にも」
その時はただ、自分の不用意な言動で松田を傷つけたであろうことを詫びるだけのつもりだった。
自分の中に芽生え始めていた松田への執着心に俊介が気づくことは、まだない。

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