■第1章(2)

しばらく後の休日、俊介は彼女に連れられて松田の自宅に来ていた。
高校を辞めてから実家を出たということで、男の一人暮らしにしては片付けられたセンスの良い部屋だった。
「はい、できたよ。おつかれさま」
松田が俊介にかけていたケープを取って、鏡越しに笑いかけてくる。
癖なのだろうか、少し小首を傾げる様が妙に似合っていた。
「どうかな?」
「えっ、あ…ありがとーございます」
感想を求められていただろうに、単に礼を言っただけになってしまった。
松田の顔をぼんやりと眺めていたせいだ。
自分には兄弟がいないし、年上の男と交流がない訳ではないが松田のようなタイプは特殊に思えて、どうにも調子が狂ってしまう。
(ま、でも、女にはモテるんだろーな)
美容師の学校なら女子も多いだろうし、女はこういうきれいな顔の男に弱い。
俊介の彼女も松田に会うといつも頬を赤くして、俊介といる時よりもよほど女の子らしくなるものだ。
(にしても…)
椅子から降りると、リビングのソファで雑誌をめくっている彼女の兄が視界に入る。
松田が高校を辞めた後でも行動を共にするということは、よほど気の合う友人なのだろうか。
その横に少し離れて腰掛けても、彼はこちらを見ることはなかった。
俊介に代わって松田の施術を受ける彼女を待ちながら、適当に雑誌を手に取ってパラパラと流し読んだ。

一時間ほどして、彼女は可愛らしくヘアアレンジされた姿で俊介の前に駆け寄ってきた。
「お、可愛くしてもらったなー」
先に声を掛けたのは兄の方だ。俊介もそれに相槌を打っておく。
彼女は出掛ける前にとトイレに立ち、俊介は先に松田の部屋を出ようと玄関に向かった。
「俊介君」
見送りにきた松田から、そっとメモを渡される。
「俺の友達とかがいると、気疲れするんじゃない?今度は、俊介君の気が向いた時でいいから」
今日のカットが気に入ったらだけど、と付け加えて、松田はいつもの柔らかい笑みを浮かべる。
(へえ、この人意外と……)
他人をよく見ている。
「…また来ます」
松田に対し初めての笑顔を見せて(と言っても口の端を少し上げただけではあったが)俊介は彼女が出て来る前に、手渡されたメモをジーンズのポケットにしまった。

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