■第1章

松田尚紀との出会いは、クラスの女子と街で買い物をしている時だった。
いわゆるデートなのだろうが、やはり俊介にはそのようなつもりはなく、面倒になってきていつ帰ると言い出そうかと思っていた矢先。
「あ、お兄ちゃん」
その女子の3歳上の兄と出くわしたのだ。その隣にいたのが、「彼」だった。
(高校生か?校則どうなってんだ、こいつの兄貴の学校は)
色がぬかれた長い金髪を見て、俊介は一瞬眉を顰める。
でもそれは浅黒い肌にはよく似合っていて、柔和な顔つきが印象を和らげていた。
「こんにちは、松田さん」
「こんにちは」
松田と呼ばれたその男はにこりと笑みを浮かべて、その笑みを自分にも向けてきた。

隣の−表向きは彼女−が興奮気味に頬を染め、俊介の袖を引っ張る。
「キレイな人でしょー!美容師の卵なんだよ」
ああ、だからか。こんな髪で生活できてるのは。
先の疑問を解決し、改めて松田を見る。確かにきれいな顔をしていた。相変わらず笑みを崩さないままでいる松田に対してにこりともしていない自分が罰悪く感じて、視線を下げる。
「松田さん、今度また髪切って!」
「いいよ。まいちゃんは嫌な顔ひとつしないで練習させてくれるから助かるな」
そういえばこいつはそんな名前だったか、と横を見ると、彼女は上目遣いに自分を見て、さもいいことを思いついたかのように提案を投げかけてきた。
「俊介も、切ってもらいなよ!松田さん超上手だよ」
誰が、と言いかけて、初対面の相手に失礼かと思い直して呑み込む。
黙っている俊介の態度をどう取ったか、松田は遠慮がちに切り出した。
「えっと…俊介君?もし君がよかったら、だけど」
「いや…まあ、…」
どうかな、とやはり笑顔で問われれば、つい歯切れの悪い返事をしてしまう。

正直な所、面倒な人付き合いは避けたかった。
けれども、この男は無理の深入りしてくるタイプではなさそうだ。
それに俊介は母子家庭だ。どちらかといえば母が優秀すぎて父が捨てられたようなものなので生活に困っている訳ではないが、タダで切ってもらえるなら少しは家計の負担を軽くできるかもしれない。
「じゃあ、今度…」
俊介のこの一言がその後を大きく変えることになるとは、まだ二人とも知らなかった。

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