5代目拍手お礼小説 25000hitキリリク
yumi様より「トモオミラブラブ度アップ(18禁)」トモ嫉妬・誤解絡み


布団で顔を隠して身体を横向きに丸めると、そろそろと仕切りのカーテンを開ける音がして、誰か入って来た。
ベッドの側の椅子に座ったその人物は、何も言わず、ただそこにいるだけだ。
俺は狸寝入りでごまかそうとしたけれど、静かな保健室では俺の「寝息」はかなり不自然に思えた。
そうして、しばらくじっとしていると。
「トモ…、寝てるのか?」
オミが、囁くように問いかけてきた。
続いて、そっと指先が髪に触れる。
優しい指先は俺の髪を梳くように何度か撫でて、触れた時と同じようにそっと離れていった。
そして、オミは音を立てないように立ち上がり、カーテンの外へと出ていった。

「まだ、寝てるみたいなので。目が覚めて気分悪そうだったら、早退させてやってください」
オミが保健医にそう告げているのが聞こえる。
保健室の扉が閉まる音がしてから、ようやく俺は身体の力を抜いた。
布団から顔を出して、髪に触れた指先の感触を思い出す。
あんなに優しく触れられて、あれが愛されていないと言えるだろうか。それとも、そう思うのは俺の自惚れ…?
だって、オミはカオリちゃんを。カオリちゃんと…

再びじんとした瞼に、すっかり溶けてぬるくなった氷嚢を押し付けた。

オミが来たのは昼休みだったらしい。
しばらく休んでからのろのろとベッドを降りると、もう6時限目に入っている時間だった。
「やっと起きたね。大丈夫?今日はもう帰りなさいね、はい」
保健医が俺の鞄を差し出してくる。教室にあったはずの俺の鞄。
「木下君が持って来たよ。授業中に目が覚めたら取りに来られないだろうからって」
「え…」
オミが。さっき来た時だ。そこまで考えてくれたなんて。
「いい友達だね。帰る時にメールでも入れておいてあげたら?すごく心配してたから」
保健医が笑って言う。
俺は頷いて、保健室を後にした。
(とは言っても…)
鞄から携帯を出して廊下をとぼとぼと歩きながら、俺はふと考える。
俺がいなければ、オミはきっとカオリちゃんと一緒に帰るんだろう。また、部屋に上げるのかもしれない。
…俺のメールは、邪魔になる。
携帯をしまって、そのまま帰ることにした。

少し早い時間で座れた電車で懲りずにうとうとしていると、携帯のバイブが震え始めた。
メールなら数秒で止まるはずのそれは、いくら待っても続いている。
さては家からか。
もう6時限目も終わった時間だし、担任か保健医から家に連絡が行って、それでかけてきたのだろう。
どの道電車に乗っていては出られないので、乗換駅まではそのままにしておくことにした。

乗換駅に着いて携帯を開いてみると、着信履歴には見慣れない名前が表示されていた。
「カオリちゃん…?」
見慣れないどころか、番号を交換こそしたものの互いに一度もやり取りをしたことはない。
そのカオリちゃんが何故、と思ったが、思い当たることと言えば最近のオミとの噂に関連した事以外にはなく、余計に折り返しの連絡をしづらい気分に陥るのは仕方のないことだった。
(どうしようかなー…)
申し訳ないとは思ったが明日教室で顔を合わせれば話はできる訳だしと、そのまま携帯を仕舞って次の電車に乗り込んだ。

頭がぼうっとするのは、朝からずっと寝ていたからだろうか。それとも、何も考えるまいと一種の自己防衛が働いているからか。
帰宅した後は一人になりたくなくて、具合が悪いなら寝ていろと言う母の言葉を適当に受け流して居間で無為に過ごした。
テレビをつけても特に興味を引かれる内容は電波に乗っていないようで、視線を泳がせれば台所で夕飯の仕度をする母に行き当たる。
忙しく動き回る母の姿を追いながら、ふと浮かんだ疑問を投げかけてみた。
「あのさー、」
「なにー?今日はほっけよ。朝矢好きでしょ、ほっけ」
「マジで!?俺一番大きいやつね! …じゃなくてさ、」
「なによ」
「いや、えっと…」
改めて聞きたかったことを口に出そうとして、母に聞くには過ぎたことかと思い直す。
「恋人に浮気をされたことがあるか」などと、今まで恋愛相談のひとつもしたことのない息子に突然問われたら母は驚くに違いない。しかも、何故そんなことを聞くのかと逆質問をされれば、上手く切り返す自信はないに等しかった。
「やー…、なんだっけ。ほっけって聞いたら忘れちった」
「あっそ。忘れるくらいならたいしたことないのね」
母はそう言うと、また忙しく食事の仕度に集中し始めた。
「たいしたことない、か…」
そんな訳はない。むしろ大問題だ。生まれて初めて焦がれるような恋をして、文字通り身も心も捧げた相手が、もしかしたら他の人と懇ろになっているかもしれないのだ。
じわりと瞼が熱くなり、ごしごしと擦って蒸発させる。短く息を吐き出して重い腰を上げ、
「俺、先に風呂入るわ」
「あら、お湯ためてないわよ」
「いい、ためながら入る」
良い匂いをさせ始めている台所を通り過ぎ、浴室に向かった。

やはり寝過ぎてしまっただろうか、体が怠い。
まだ湯の少ない浴槽に膝を抱えてうずくまるように入っていると、思い出されることがあった。
(オミ、一緒に入りたいって言ってたよなー…)
恥ずかしくていつも断ってしまっていたから、まだ実現していないけれど。
(一回ぐらい一緒に入っとけばよかった…)
そうしていれば、オミは自分から離れて行くことはなかったかもしれない。
数分の後に十分な深さまで湯がたまった浴槽に肩まで浸かる。じわりと温まってほうっと溜め息をつくと、湯の表面がぶくぶくと泡立った。
保健室で寝ていた時に髪に触れた、オミの指先を思い出す。
いつも温かい手で、腕で、自分を包んでくれたオミ。このまま諦めたら、もう、それが叶うことはなくなってしまうのだろうか?
「……」
ぎゅっと、自分で自分を抱きしめるように腕を回す。
湯の中に、涙が混じって音もなく溶けていった。

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