朝の空気はだいぶひんやりしていて、風を浴びながら自転車を飛ばしてアパートに着く頃には手や耳が冷たくなっていた。
「オミ、鼻が冷たい」
「トモもだよ」
キスひとつでも季節を感じるもんだな、なんて言いながら部屋に上がると、オミがコーヒーを淹れて出してくれた。
「ん、熱い」
「気をつけろよ、お湯沸かしたてで淹れたから」
ふうふうと吹いてから口に含んで、ゆっくり飲み込んで。体の中からじんわりと暖まって、ほうっと息を吐いた。
その様子をオミがにこにこしながら見ているのに気づき、目を上げて何?と聞いてみると、
「いや、かわいいなと思って」
「子供っぽいって言いたいんだろー」
コーヒーにしたって、オミはブラックで飲んでいるのに俺は砂糖とミルク入り。猫舌で、ちゃんと冷まさないと飲めないし。
「そんなことないよ」
相変わらず笑いながら、むくれて尖らせた俺の唇をちゅっと吸って。
頬や額にも何度も口づけられるから、飲みかけのコーヒーをテーブルに置いて首筋に抱きついた。オミの腕は俺の背中に回って、途端、口づけが深くなる。
「ん…は、もう、まだ飲み終わってないのに…」
唇が離れた隙に文句を言うと、コーヒー飲むよりこの方が暖まるだろ、なんて。
確かにくっついていた方があったかいけど。
「それに、もらっていいんだろ?頑張ったご褒美」
「う…それはそうだけど…今から?」
初めての時に続いて今回も、こんな朝からすることになるんだろうか。
一応「そのつもり」では来たものの、外のあまりの明るさに目眩すら覚える。
オミを見上げると、まさにこれからご褒美の包みを開けんばかりにわくわくした様子で無邪気な笑みを浮かべていた。
「どっちが子供なんだか…」
これからしようとしているのはおよそ子供らしさとはかけ離れているというのに。
でも、俺はつくづくオミの笑顔には弱い。
何より、オミの頼みを断る術なんて俺にはないんだ。
「…カーテン」
俺の言葉を肯定と受け取ったオミの笑顔に、少し大人びた色が差した気がした。

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