「…トモ」
「……」
「トモ、こっち向いて」
「………」
はぁ、とオミのため息が頭上で聞こえる。
…初めてのセックスが終わった後、呼吸が整うのを待ってから体を離して。
抜け出て行くオミに幾許かの名残惜しさを感じたのも束の間、オミはティッシュを取って、自分の後始末より先にさっきまで入っていた俺のそこを拭い始めた。
「お、オミ、いいって、自分でやるから…!」
慌てて抑えとどめようとしても、腰から下が怠くて思うように動けない。
結局、ティッシュであらかた体にまとわりついたものを取り除いてから濡れタオルで全身きれいに拭かれるまで、だんだんはっきりしてくる意識の中で俺は羞恥に耐える羽目になったのだ。
そうしていると、セックスの最中のことがまざまざしく思い出されて…
オミが自分の後始末を済ませて、体を拭いたタオルや俺の腰の下に敷いていたタオルを洗濯機に放り込んでいる間に、俺はベッドの足元に丸まっていた毛布を頭まで引き上げ、枕を抱きしめて壁を向いて丸くなっていた。
…そして、戻ってきて毛布に潜り込んできたオミに後ろから抱きしめられて、今に至る。
「……」
ため息をついたきり黙ってしまったオミに、少し不安になる。
怒らせてしまっただろうか。呆れられた?
枕をさらに強く抱き込んで、顔を埋めた。
「…ごめんな」
しばしの沈黙を破ったのは、オミの謝罪。
「体、きついだろ…俺、トモのこと考える余裕なくなってたから…」
「ちが…」
俺は、そんなこと思ってない。
「…幻滅されてもしょうがないよな。やっぱり俺、…その、初めてで舞い上がっちゃって…」
え?
「でも、トモと出来てほんとに嬉しかっ…うわっ」
「は、初めてってホントかっ?!」
勢いよく振り返った俺に、オミは驚いた様子で言葉を失う。
「初めてって…ホントか…?」
改めて問い直すと、みるみる真っ赤になっていく。
意外な反応に、今度は俺が言葉を失った。
「最初に言っただろっ、上手くできるか自信ないって…!」
しどろもどろになりながらのオミの言い分を頭の中で整理する。
その意味を理解した途端、嬉しさがじわじわと込み上げてきた。
抱きつきたいのをこらえて、まずは。
「オミ、ごめん…!」
まだ前に抱えたままの枕にばっと顔を伏せて、オミに謝る。
「俺、てっきりオミは経験あるんだと思ってたんだ…だから、俺の方こそ幻滅されたんじゃないかと思って、は、恥ずかしくて…」
「…なんで俺が経験あると思ったの?俺ってそんな遊んでるように見えるのか…?」
少し悲しそうになったオミの声に、必死で否定する。
「違う、だって、オミは昔からかっこいいし、モテるし、それに…」
キスもエッチも上手い(気がする)し。
悔しいからそれは言ってやらない。
その代わりに、抱えていた枕を頭の方にどかして、オミにぎゅっと抱きついた。
「嬉しい。俺がオミの初めての相手になれて」
どんなにかわいい子より、きれいな子より、俺を選んでくれたことが。
「本当?無理させたし…後悔してないか?」
「してないよ…オミが俺のこと大事に思ってくれてるのも分かったし」
自分のことを二の次にして、何度も何度も俺を気遣って。
こんな俺を「独占したい」とまで言ってくれて。
「ありがとう、オミ」
体に負担がなかったかと言えばそうじゃない。
初めてのことだらけで混乱して、みっともない姿を見せてしまったかもしれない。
でも、好きな人と一つになれる喜びを、オミは教えてくれた。
「俺も…ありがとう」
抱きしめる腕と優しい唇を受け止めて、俺は改めて、幸せだと感じた。

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