土曜日、朝。
俺はオミのアパートに向かう道を歩いていた。
オミから好きだと言われた日に、初めて自分で歩いた道。
今日は…オミの言う通り泊まっていけば、きっと…
この道を歩くたびに、オミとの関係が変化するような気がする。

金曜までは普通に過ごした。
というより、努めて普通に振る舞った。
少しでも気を抜くとどうしても今日のことを考えてしまって、オミの顔をまともに見られなくなってしまう。
オミも少なからず同じ気持ちでいたようで、いつものスキンシップもどこかぎこちなく、俊が離れたところからニヤニヤ見ていたっけ。

アパートの階段をあがってドアをノックすると、すぐにオミが出てきた。
「入って」
部屋に入ってドアを閉めると、一気に力が抜けてため息が出る。
(何を緊張してるんだよ、俺は…)
意識しすぎかもしれない。
「トモ、ちょっと携帯貸して」
「え?ああ…」
急に言われて理由を考える間もなく渡すと、オミは俺の携帯でどこかに電話をかけるようだった。
「ちょ、何やって…」
「しっ。……あ、もしもし。いえ、木下ですけど。おはようございます。すみません、朝から朝矢君をお借りして…」
「!」
オミの口ぶりと話の内容で、俺の家にかけて母さんと話しているのだと分かった。予め俺から「泊まってくる」とは言ってあるものの、オミ自らも断りを入れるつもりらしい。
動揺している俺の傍らでオミはいつものように和気あいあいと話を進めると、俺には一度も代わらずに電話を切ってしまった。 何食わぬ顔で携帯を返される。
「電話代、ごめん。今度おごるから」
「いや、そんなのいいけど…別にオミから断り入れなくてもよかったんだぞ?信用されてんだし」
「だろうなー。悪いわねーよろしくお願いしますって言ってたよ、おばさん」
セリフ部分に軽く物真似を入れて、オミは結果オーライとばかりにウインクしてみせた。
オミの前向きな所や楽観的な所は好きではあるけど、たまに俺の理解を超えているような気がする。
母さんもよくオミに『うちの朝矢をよろしくお願いします』みたいな事を言ってるけど、息子の同級生に何もかも任せて安心だと思っているんだろうか。
「トモん家にはすっかり公認だな、俺達」
オミが嬉しそうに言って抱き締めてくる。
「俺、別に付き合ってるとか言ってないけど…」
擦り寄せられる頬に少し応えて、オミの背中に腕を回す。今までオミみたいなタイプが俺をこんなに慕ってくれるなんてなかったから、母さんが喜ぶのは良く分かる。でもさすがに、いつの間にかこんな関係になっていて、仮にも長男である俺が抱かれる側になろうとしているなんて、当分は言えそうにない。
「あ…」
オミの鼻先が首筋に潜り込んできて、くすぐったさに肩をすくめた。ちゅっちゅっと吸われるうち、昨日の事を身体が思い出してくる。オミのシャツをつかんだ掌が汗ばみ始めていた。
「トモ、いい匂いする…」
「あ、朝お風呂入ったから…ん…っ」
耳たぶを甘噛みされて、思わずぎゅっとしがみついてしまった。オミは大丈夫というように俺の背中を撫でると、一旦身体を離す。
「じゃあ、トモは準備オッケーだ」
「え?」
「俺もシャワー浴びてくるから、ちょっと待っててくれる?」
容易にセックスを想像させるその言葉に、俺の心臓はどくんと跳ね上がった。

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