オミの手を引っ張って先を歩き、チャリの後ろに跨がる。
二人乗りで帰るのはいつもの事だから、オミは何か言いたげな顔をしながらもそのまま出発する。そしてお互い無言のまま、しばらく進むと突然止まった。
「何…?」
足をついて顔を上げると、何故止まったのかすぐに分かった。
オミのアパートに行くにはこの路地を入る。
まっすぐ行けば、駅に着く。
このまま帰るか、アパートに行くかの分かれ道だった。
オミが顔だけ振り返って、目で聞いてくる。どうする?と。俺はかっと来て、オミの背中にしがみついた。
「帰らないからなっ……」
そう言って。
自分でも、何で急にこんな行動に出てしまったのかと思う。焦りだけが大きく膨らんで、俺を支配していた。まだ、自信が持てずにいたんだ。好きだと言い合うだけの関係では、終わりが見えているんじゃないかと。せっかく求められているんだから、身体の繋がりを持った方がオミにとっての俺の存在意義が大きくなるんじゃないかと。浅ましくて情けなくなる。
チャリは再び動き出し、細い路地へと入って行った。


部屋に入ると、俺はすぐにオミに飛びついて唇を重ねた。
飛びついた勢いにオミが後退して、ぶつかったベッドに腰かける姿勢になる。俺はその上に跨がって、必死になってオミの唇を吸った。両手はオミのシャツの襟を引っ張るくらいに握り締めて、キスしていなければまるで掴みかかってケンカでもしているみたいだった。
「……っ、トモ、トモ!」
「うるさいなっ……!」
肩を掴まれ力で引き剥がされて、俺はその反動でオミをベッドに押し倒した。困惑したオミの表情が目の前に見え、いたたまれない気持ちになる。
…こんなの、全然違うのに。
俺は振り払うように頭を振って、オミのシャツのボタンを外しにかかった。けれど手が震えて、思うように進まない。焦れったくて、引きちぎってしまおうかとも思った、その時。
「……!」
オミの手が頬に触れて、俺はびくりと手を止めた。
冷たかった、オミの手。いや、違う。自分の頬のあまりの熱さに驚いたんだ。
オミは何度か俺の頬を撫でると、シャツを掴んでいた手をやんわりと退けさせ、俺に押さえ付けられていた上半身を起こす。そして宥めるようにゆっくりと、俺の耳元に息を吹き込んだ。
「落ち着いて、トモ。どうしたんだよ…?」
「う……っ…」
オミの声が薬みたいにしみ込んで、強張った身体の力が抜けていく。また名前を呼ばれて顔を上げると、窺うような視線にとらえられた。その奥──瞳の中に、俺が映っている。ああ、まただ。また、どうしたらいいのか分からないって顔してる。
そんな俺を映し続けるその目がすっと細められ、俺はオミの腕の中に収まった。シャツ越しに触れる身体が熱く感じられるのは俺自身の体温なのか、それとも……
「噛まれるかと思った、さっき」
俺の肩口に顔を埋めてオミが呟く。自分でも嫌になる程の強引さが思い起こされて、罪悪感が押し寄せて来た。謝らなければ、自分の気持ちを説明しなければ。
「…でも初めてだよな、トモからキスしてくれるのって」
「……!」
顔は見えないけれど、オミが少し笑った気がした。俺を抱く腕に、一瞬だけぎゅっと力がこもる。
「焦らなくていいんだからな」
そう言うとオミは身体を離して、自分で残りのボタンを外した。見せつけるように、脱げるぎりぎりまではだけさせる。それがひどく艶っぽく見えて。
どうする?
そう言われて、俺はこくりと息を呑んだ。

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