■第五章

それから秋休み中は毎日、俺がオミのアパートに通った。
俺が来るのをあんなに拒んでいたのが嘘のように歓迎してくれるし、最終日になる頃には合鍵までくれた。
そして、一旦触れるとなかなか俺を離さない。俺がGOサインを出すまでキスから先はおあずけ、という事になっているので、じれったそうにはしているけれど。
(それにしても…オミってこういうタイプだったっけ?)
部屋にいる間はそれこそトイレと食事以外はずっとくっついているような状態だった。キスだって一日に何十回しているか(されているか)分からない。愛されてるんだと思えば悪い気はしないし、今までの時間を埋めるにはまだまだ足りないくらいで。
でも。
「ん…っ」
唇が離れた後の、オミの何か言いたげな表情。何が言いたいのかは分かってる。
(何か大変な約束しちゃったんだなあ、俺…)
俺から言わないと、俺達の関係は進展しない。つまり、俺が誘ってセックスする事になる訳で…
(そんな事できる訳ないじゃんか)
そりゃ、したいけど。初めてだし男同士とか色々不安はあるけど、オミなら優しく抱いてくれそうだから。少なくとも夢で見た時はそうだった。優しくて、気持ち良くて……
オミは妙に律儀な所があるから、一度決まってしまった以上は無理に誘って来る事はないだろう。でもいっそ押し倒してくれた方が、よほどスムーズに事が運ぶ気がする。
見上げて目が合うと、またちゅっと唇をさらわれた。


「よお、久しぶりー。有意義な秋休みだったかい」
休み明け、揃って登校した俺達を見つけて俊が歩み寄ってきた。ムッとするオミには構わず、俺をぐいぐいとバルコニーに引っ張って行く。
「で、どうだった?上手く行っただろ?」
「ああ…うん、お陰さまで」
秋休みの初日に強引にでもオミの部屋に行けと言ったのは俊だった。その通り行ってみて、確かに進展はあったのだから感謝すべきだろう。
「そういや俊、あいつんち行く時に必要な物って何だったんだよ?」
カラオケで俊が言いかけた事。オミが持ってるだろうからとも言ってたっけ。
「え?ゴムだよゴム。使わなかったの?」
「ばっ…し、してねえよっ、そもそもっ」
俊の言う「使わなかった」が「生でした」という意味を含んでいるのを感じて、俺は慌てて否定する。
「嘘だろ?してない?一週間も休みあって?」
「うるさいなっ、みんながみんなお前みたいに手ぇ早くねんだよっ」
呆れた口調と話している内容にかっとなって、俺は思わず声を荒げた。第一、ここは学校のバルコニーなのだ。こんな話、他の生徒に聞かれでもしたら。
「あーあ、ひどい言われようだなぁ、俺」
俊の苦笑を背に、ふんと踵を返して教室に戻った。
冗談じゃない。オミはそんなに軽いやつじゃないんだ。現に、俺がいいって言うまで待ってるって言ってくれてるし。でも…
オミが持ってるって事は、オミには経験があるって事?でも、元カノのカオリちゃんとはしてないって言ってた。じゃあその前は?余裕があるのは慣れてるから?
「眉間にシワ」
席に着いてからもふくれ面をしていた俺のおでこをオミが突つく。
「まーた奈良に何か言われたのか?」
「別に…」
何を話してたかなんて言える訳がない。視線を落とすとちょうどシャツのボタンを開けたオミの胸元が目に入って、妙に意識してしまう自分が恥ずかしかった。
予鈴が鳴って、オミは俺の頭を軽く撫でると自分の席に戻って行った。

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