期末試験最終日。
明日から秋休みに入るという事もあって、最後の科目が終わると学内は開放感に溢れた。
「あー終わったー!俺は赤なさそうだけど、トモは?」
「うん、俺もさすがに赤はないと思う」
「よっし、じゃあ思う存分後夜祭の準備ができるな」
屋上庭園行こうぜ、と促して歩き出そうとするオミの腕を俺は引き留めた。振り向いたオミと目が合う。
「どうした?まだ支度できてない?」
『困るだろ』
「…あ、いや、その…」
駐輪場での事がフラッシュバックして、俺はオミの腕をつかんだまま視線を落とした。
「今日は…やめとく。昨日あんまり寝てねーから…」
とっさについた嘘。拒絶されるのを避ける為に、自分からオミの誘いを断った。本当は一緒にいたいけど。どんどん膨らんで行く俺の気持ちをオミがどこまで受け入れてくれるのか分からないから。自信がないから。それを知るのが、怖いから。
「そっか。じゃ、帰…」
「よお、おつかれー」
オミが言いかけた所に俊が割り込んで来る。そして俺の手をオミの腕から外させると、肩をぐっと抱き寄せてきた。目の端に、一瞬強張ったオミの顔が映った気がした。
「なあ、試験終わったんだしどっか寄らねー?」
俊はオミには構わずに、さらに俺に顔を寄せて来た。まるでオミに見せつけるかのように。変な誤解をされたくなくて、俺は肘で突ついて俊の腕から抜け出す。
「…お前もどう?」
そう言って上目遣いにオミを見た俊は、ひどく挑発的な表情をしていた。一方のオミは、明らかに気分を害したのが見て取れる。俺にはそんな顔を見せる事はないから、正直言って怖かった。
小さく笑みさえ浮かべている俊と、口を堅く結んだままのオミ。睨み合いとも言える状態がしばらく続いた後、
「…俺はいい」
オミはそう言って踵を返した。
「あっ、オミ…!」
咄嗟に追い掛けようとしたものの、どう声をかけていいか分からず、結局オミの数歩後ろをついて歩く羽目になった。その俺のさらに後ろから、俊が脳天気について来る。
靴を履き替えた後、オミは何も言わずに駐輪場に向かってしまった。
「あーあ、君のカレシは心が狭いねえ…いてッ」
俺は苛立ち任せに俊の向こう脛を蹴りあげる。足を引き摺りながらついて来る俊を振り返り、
「お前のせいだっ!今日は奢ってもらうからな!」
これまた苛立ち任せに言い放った。


ストレス発散にちょうどいいかと思って入ったカラオケボックスだったけど、楽しく歌う気分ではなかった。
「お前さ、また何か悩んでんだろ。言ってみ?」
俊は歌本のページを適当にめくるだけの俺からコーラを横取りして一口飲むと、ついでに歌本も取り上げて向こうに置いてしまう。
「別に悩んでなんか…」
「嘘つけ。顔にはっきり『コイワズライ』って書いてあるっての」
言い当てられて、ぐっと唇を噛んで俯く。外からほとんど見えない個室の中という油断もあって、じわりと涙が浮かんできた。
「ああほら、泣くなって。…どうしたんだよ?」
くしゃくしゃになったハンカチを差し出す俊の不器用な気遣いに、俺が片思いしていた頃と同じように、悩んでいるのを知って誘ってくれたのだと気付く。そうして促されるままに、話せるだけの事を話した。

「なるほどねえ…」
腕組みをしてぼんやり宙を見上げた俊は、ふと真顔で俺に向き直った。
「あのな。お前にはどう見えてんのかわかんねーけど、あいつお前にベタ惚れだぞ?」
「え?じゃあ何で…部屋入れてくれなかったりとか…」
俺の頭上にいっぱい浮かんだ疑問符を見抜いたようにフフンと笑うと、俊は肩を竦めて首を振った。
「ベタ惚れだからだよ。朝矢はお子さまだからわかんねーかなあ」
「何だよお子さまって…」
唇を尖らせた俺の背中をぽんと叩いて、俊はもう一度真顔に戻る。
「いいか。明日、とにかく早起きしてあいつん家に行け。場所分かるだろ?」
「え、そんな事したらオミが怒…」
「絶っ対、怒らねーから。とにかく行って来い」
きっぱりと断言されて、言い返せなくなってしまう。
俺が黙っている間に1曲入れた俊は、前奏の間に振り返って付け加えた。
「あと、あいつん家行くなら持ってた方がいい物がいっこあるんだけど…」
「何?」
「…ま、多分あいつが持ってるな」
俊は一人で納得したように頷くと、そのまま歌い始めた。

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