「いいな、明日絶対あいつん家行ってこいよ」

別れ際に念を押されて帰路についた電車の中、俊に言われた事を少しずつ思い出す。
「今の状況に不満があるんだったら、お前から行って来い」
(行って、何か変わるのかな)
「じゃあお前、逆の立場で考えてみろよ。あいつが家に遊びに来たら嬉しいだろ?」
(そりゃあ、俺はオミの事好きなんだしさ…でも俺は来ちゃダメだって言われたし)
「お前にベタ惚れだよ、あいつ」
(だったら何で俺はこんなに悩んでんのかな…)
ケータイを開いてオミと撮った写真を探す。俺がこのケータイを買った時にすぐ撮ったものだ。小さい画面に入るように寄せ合った頬。照れたような嬉しそうな俺の顔。オミにも内緒で大事に取ってある一枚。
オミの言った事が本当なら、この頃はもうオミも俺の事が好きだったって事だよな…
(わかんねーや…)
パチンとケータイを閉じて、暮れ行く外の景色に目を移した。


翌朝、ラッシュアワーを少し過ぎた時間に俺は再び電車に乗っていた。
夜中に何度も目が覚めて熟睡できず、そのうち家族が起きだして来たようなので(俺は休みだけどみんなは通常の平日だから)俺もついでに早起きしてみた。あまり遅くなると、先にオミがこっちに向かって来てしまうし。
メールでも入れようかと思ったけど、来なくていいと返されそうで出来なかった。
(勝手に行ったりしたら、怒るかな…)
もし玄関まで行って、追い返されたらどうしよう。
まさかとは思うけど、他の…女の子とかがいたりしたら。
急に怖くなって、ぎゅっと締め付けられるように痛む胸を押さえた。深呼吸して何とか気持ちを落ち着ける。
大丈夫…大丈夫。俊は心配するなって言ってた。今までだってたくさん悩んだけど、オミは俺の事が好きだって言ってくれた。大丈夫。
開いたドアからホームに降り立ち、両手で軽く自分の頬を叩いた。
地図を片手にオミのアパートを目指す。あの時は学校からチャリで連れて来られて、帰る時にアパートから駅まで送ってもらっただけだから、駅から向かうのは初めてだ。道々で目にした景色の記憶を頼りに、朝日がまぶしい住宅街を進んだ。
(あった、ここだ…)
塀の前に自販機がある、2階建てのアパート。すぐ側にオミがいるのだと思うと、緊張して足がすくんだ。なかなか前に踏み出せない。静かな住宅街で自分の胸の高鳴りだけが響いているように思えた。
その時。
「……っ!」
ポケットの中の携帯が鳴り、全身がびくっと震える。慌てて着メロを止めて確認すると、オミからのメールだった。
『おはよう。起きてる?』
いつもの休日と変わらないモーニングコール。このままここでじっとしていても、そのうちオミが出て来てしまう。俺は手短に「起きてるよ」と一言返すと、意を決してアパートの外階段を上った。
ドアの前でもう一度深呼吸をして、インターホンを鳴らす。すぐに中からオミの返事が聞こえて、数秒後にドアが開いた。

BACK←→NEXT


連載/短編/お題
サイトトップへ


広告が表示された場合はレンタルサーバーによるものです。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送