■第四章

思わぬ形でオミに告られ、俺達にはとりあえず今まで通りの日々が戻って来た。
宙ぶらりんになっていた「後夜祭に出よう」という計画も再始動して、昼休みや放課後も屋上庭園で時間ギリギリまで練習している。一緒にいられる時間がまた増えたのは嬉しいけど……

その前に、驚いた事が一つあった。
俺を家に連れて行って話をするようにオミをけしかけたのは、俊だったらしい。
あの日、用があるからと俺を待たせたオミは俊と一緒に戻って来た。用というのが実は俊からの呼び出しで、俺の事で色々と話をしたんだそうだ。
二人とも詳細は教えてくれないけど、大まかに言うとオミは俊から仲直りしろと強く言われたという事で…
内向的な面がある俺の性格を分かった上での俊の気遣いだったんだろう。
そういう経緯もあって、俊には俺達が付き合い始めた(?)事をオミの了解も得て話してある。

もう一つ驚いた事。
好きだと言われて嬉しい反面、気になったのでいつからそうだったのかを聞いてみたら。
「確信持ったのは最近だけど…中3の時には今と同じ気持ちだったかな」
高校受験の志望校を俺に教えてくれたのは、もしかしたら同じ所に来てくれないかと思ったから。
カオリちゃんと付き合ったのは、俺がどんな反応するのか気になったから。
今になって思えば、色んな事に関して俺が基準になっていたらしい。
全然気付かなかった。俺は自分の気持ちだけでいっぱいいっぱいで。
「もっと早く言ってくれれば、俺こんなに悩まなくて済んだのに…」
やっと止まった涙を袖で拭きながらぼやいた俺を、オミはもう一度抱き締めてくれたっけ。


それ以来、何もない。


そもそも二人っきりになる時間もないし…あれから2週間経つけど、オミの部屋には行ってないし。週末はオミが俺の地元まで来て、夕方に帰って行く。思いきって「俺が行こうか」と言ってみたけど、何だか上手くはぐらかされたような…
告られたのもキスしたのも夢だったんじゃないかと思うくらい、ただの親友だった頃と変わらない日々。
もしかして、あの時はああ言ってくれたけど、後で冷静に考えたらやっぱりだめだったとか。カオリちゃんみたいなきれいな子にも好かれるオミが、男となんて…しかも俺。
(素直に喜べる状況じゃないのかな…)
休み時間にトイレで一人、手を洗っている所に俊が入って来た。
「よお。どうした?」
俊が自分の用を済ませて手を洗うのを、俺は何となく待っていた。俺達の事を知っている俊にだったら、それとなく相談できる気がしたから。でも、どう切り出していいか分からない。
「あいつと一緒じゃねーの?」
「さすがに連れションはないだろ…」
そうだよな、とケラケラ笑って、俊は悪戯っぽい目で「でもさ」と続ける。
「今みたいな状況だったらチャンスじゃん」
「チャンス…って、何」
「個室でイイコト…とかさ。スリルあるぜー」
「なっ……!」
俊の言わんとする事が分かった途端、かっと顔が熱くなる。ちょっと想像してしまって、慌てて頭から追い出した。
「ったく、からかうなよっ」
イイコトも何も、そんな事を考える程の進展がない。そう思うと自然とため息が漏れた。
オミが嘘を言うなんて思えないけど、さすがに俺みたいな奴を好きになったと言っても、好きの意味が違うのかもしれない。だから…
「…何だよ、上手く行ってねーの?」
俊が俯いた俺を覗き込んで来る。
上手く行ってない訳じゃない。と思う。少なくとも以前と変わらず仲はいいし、悪い所なんてひとつもないはずだ。でも、心の片隅にもやもやと居座るこの物足りなさは何だろう。
「なあ俊、上手く行くってどういう事だと思う?」
「は?」
俺の質問に、俊は何を聞くんだとばかりに目を丸くした。
「そんな事俺に聞くなよ。お前やあいつがどう思うかだろ?」
「それはそうだけど…」
ますます俯いて言葉を濁す俺に、俊は少し語気を強めた。
「じゃあお前、あいつとどうなりたい?何がしたいの?それがわかんなきゃどうにもならねーよ」
どうなりたい?何がしたい?
そういえば、俺がオミに求めてるものってなんだろう。
片思いしてると思ってた頃は、親友としてでもいいから一緒にいられればそれでいいと思ってた。
オミが好きだって言ってくれて、抱き締めてキスまでしてくれて、すごくすごく嬉しかった。
その時点で、もう自分が望んだ以上の事は叶っているはずなんだ。
それなのに…
「ま、あんまり難しく考えんなよ」
俊は俺の肩を軽く叩いて、ニヤリと笑った。
「俺なら早いとこエッチに持ち込むけどな」
「ばっ…何言ってんだよこのバカ!」
殴られるのをするりとかわして逃げるようにトイレを出た俊を追って俺も駆け出す。
廊下を走っている間に、予鈴が鳴った。

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