しばらく走り続けたチャリは、やがて小さなアパートの前で止まった。
何を言う暇もなくオミに引っ張られるように2階の部屋の前に来る。
「…ここって…」
「俺んち。入って」
ドアを開けられ、玄関に足を踏み入れる。
初めて入ったオミの部屋は、想像していた通りきれいに片付けられていた。ミニテーブルの前に腰を下ろすと、オミが冷たい麦茶を出してくれて横に座った。
「家族以外で部屋に入れたの、トモが初めてだよ」
そう言われたのは喜んでいい事だと思う。こんな状況じゃなければ舞い上がっていたに違いない。でも今は…この1週間ほとんど話もしてなくて、どうしたらいいのか分からなくて、なのに突然部屋に連れて来られて…落ち着かなくて緊張して、何だかひどく居心地が悪い。
「なんで……」
そんな一言が自然と口をついて出た。この1週間に何度も何度も頭に浮かんだ言葉。いくら考えても、俺には答えが出せなかった。
「俺のケガの事、まだ気にしてんのか…?全然話してくれねーし、なのにチャリの送り迎えには来るし、今だって…俺わかんねえよっ……」
頭のごちゃごちゃを上手く説明できる訳もなく、俺は唇を噛んで下を向いた。
横でオミが麦茶をぐいっと飲み干す。グラスが置かれた音にまで過敏に反応してしまい、体が竦んだ。
もしかしたらうざいと思われたかもしれない、あんな風に責めたりして。
今更不安になって、握った掌にじっとりと汗が滲んでくる。
息を殺してじっとしていると、オミがゆっくりと口を開いた。

「じゃあ、1個ずつ答える。
ケガの事は、気にするなって言われても無理。
トモ見てると辛かったから、学校では何となく避けてた。
でもトモと接点なくなるのが嫌だったから、送り迎えはやめなかった。
ここに連れて来たのは、ちゃんと話したかったから」

「分かった?」
そう聞かれて俺は首を横に振った。
だって、本当に分からなかった。最悪のケースばっかり考えていたから、予想と全く違う答えを提示されてますます混乱した。
「な…何だよそれっ…オミは悪くないって最初っから言ってんじゃんか…、それに俺見てると辛いってのも…何でオミが辛いんだよ?」
結局はまた質問攻めのようになってしまう。おまけに、最後の方は涙声になってしまっているのが自分でも分かるくらいだった。せめて涙が零れないようにと必死でこらえて、ぐっとオミを見上げる。
「俺だってオミにあんな態度取られて辛かったのにっ…人の気も知らないで…!」
勢いに任せてぶちまけると、オミに両肩をぐいっと掴まれた。怒らせた…!と思い、反射的に目を瞑る。
「じゃあトモは、目の前で好きなやつがケガしても平気でいられるか?そいつが気にするなって言ったら、はいそうですかって聞けるか?顔腫らして絆創膏してんの見て、毎日フツーにできるのかよ…!」
オミにこんな強い口調で物を言われるのは初めてだった。恐る恐る目を開けるとオミは怒りにも悲しみにも取れるような色を湛えた目をしていて、その中に泣きそうな顔の俺が映っている。

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