翌朝、オミはいつものようにチャリで駅前まで迎えに来てくれていた。
「おっ、今日もお迎えごくろーさん」
なんておどけてみたけど、反応がイマイチ。
「痛む?」と聞いた後は学校に着くまで一言も口をきかなかった。
「気にすんなよ」「薬飲んでるから大丈夫だよ」「手足は何ともないから不自由ないよ」
何を話し掛けてもオミは無言で。
学校に着く頃には俺は泣きたい気分になっていて、下駄箱で俊を見つけると思わずそっちに駆け寄った。
「おはよーさん。うわ、どーした?」
俊はちょっと驚いた後、絆創膏の上を緩く撫でた。
「何か大変な事ないか?俺にできる事があったら何でも言えよ」
「大丈夫だよ。気にすんなって」
変わらない俊の態度に安心してしまう。
俺達の横を、オミが何も言わずに通り過ぎて行った。
「…いいのか?」
オミの背中を見送った俊は、その視線を俺に落とした。
いいかと聞かれれば、いい訳がない。
でも、俺にはどうしたらいいのか分からない。
オミが何を考えてるのか。
「何か、気にしてるみたいで。ケガした時一緒にいたから」
「ふうん」
俊はもう一度オミが去って行った方に目をやると、
「朝矢の気持ちは気にしてねーんだな」
ぼそりと呟いて、肩を竦めて小さく笑った。

教室でも、いつもはあれこれと構ってくるオミが全然こっちに来るそぶりもなくて、俺は何となく俊の後ろについて過ごした。
「いいの?あいつんとこ行かなくて」
「うん…話し掛けづらいし」
そうだ、俺って。
オミが話し掛けてくれなければ、こっちから話し掛ける事もままならない。
オミが離れて行ったらこんなにもあっさりと、昨日までが嘘みたいに。
俺って、オミの何だったんだろう……。
親友だったはずなのに、たった一つの事で壊れてしまうなんて。
トモがいれば彼女なんかいらないって言ってくれたのは?
ぼんやりとオミを見ると、気のせいかいつもより周りに人が多い気がした。
「おい」
呼ばれてはっとする。
俊は俺の髪を乱暴に掻き回し、ちょっと怖い顔をして
「お前、泣くなよ」
と言った。いつもみたいな茶化すような目じゃなくて、真剣に。
「誰が泣くかよ。バカにすんな」
俺は俊の手を振り払うと勢いよく席を立った。椅子がガタンと跳ねたその音にも、オミはこっちを向く事はなくて……。

「トモ、帰ろう」
耳を疑った。目も疑った。でも確かに目の前にはオミがいて、今俺に向かって「帰ろう」って言った?
なんで。どうして?さっきまで、終礼が終わるまで目も全然合わせなかったのに。
「お前ふざけん…」
「俊、いいから」
それでも、俊がオミに掴み掛からんばかりに前に出たのをとっさに止めてしまった。
こんな状態でもオミと一緒にいられる時間があるなら無駄にしたくない。オミの方から一緒に帰ろうって言ってくれたんだ、きっと大丈夫。
「サンキュ。帰ろうぜ」
俺は無理矢理笑顔を作ってみせた。けど。
結局は登校の時と同じで、チャリに乗っている間じゅう全然口をきかなくて。
途中で同じクラスのやつを追い越した時、オミが明るく挨拶をしているのがひどく引っ掛かった。そんなのいつもと同じ事なのに。
変わったのは、俺たちの間だけ。
広くてあったかくて大好きなはずのオミの背中が、まるで壁のように感じられた。
「じゃ、気を付けて帰れよ」
駅で俺を下ろしてすぐに走り去ろうとするオミの袖を思わず掴んで引き留めた。
このままじゃだめだ。何か話すとか、せめて……
ぽん。
頭にオミの手が置かれて、顔を上げるとオミが笑った。でもそれはいつものような笑顔じゃなくて、寂しそうな、悲しそうな…
「また明日な」
俺が何も言えないでいるうちに、オミは帰って行ってしまった。どんどん小さくなっていくオミの背中が涙で滲む。
なんであんな顔するんだよ。なんで何も言ってくれないんだよ。なんで……
「訳わかんねえ…」
涙がこぼれないようにぐいっと拭い、改札の中に駆け込んだ。

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