日曜日。
まだ夏の名残りをとどめる陽射しが照りつける中、俺はオミと一緒にうちの近くの公園に来ていた。お互い彼女がいた時は4人で遊んでいたから、2人だけで来るのはずいぶん久しぶりだ。
「やっぱ楽だなあ、トモと2人だと」
オミが俺の心の中を見透かしたように言った。その手にはラジカセ。
中3の夏以降、受験勉強が本格化してからは毎週のようにラジカセを担いで…という事はなくなり、それと共に遊び方も少し変わって来ていたけれど、たまには思い出したように「何か新しい事やろう」なんて言って持って来たりする。
「トモもかなり上手くなったし、このままやめるのも勿体ないだろ。文化祭でやらない?」
後夜祭のステージパフォーマンス募集、というポスターが校内に貼ってある。それを見たオミが2人で出ようと言い出したのはつい先日の事だった。もともと人前で何かするのがあまり得意ではない俺はそれこそ最初は渋ったものの、結局オミの頼みでは断れないというのが実際の所だ。
「トモは器械体操得意だから、何かこうアクロバティックに…」
オミの中ではすっかり出来上がっているらしい。でも…
「俺が目立ってもしょうがないだろ?オミの方が人気者なんだからさ」
これは俺の正直な意見だ。どうせならカッコいいオミが目立った方がいい。というよりむしろ、カッコいいオミを俺も客として見たい。
「だって俺、トモと違って飛んだり跳ねたり苦手だもん。それに、トモは結構アイドルなんだぜ?」
オミは俺の頭をくしゃくしゃと掻き回して、意味ありげににんまりと笑った。
「自分じゃ気付いてないかもしれないけど、ユイちゃんみたいにトモの事可愛いなって思ってる子もいるし、女子だけじゃなくて男子にも…」
「は?」
「アブナイ奴がいーっぱいいるんだよ、気を付けな」
くしゃくしゃにした俺の頭をぽんぽんと叩いて、オミは小さい子に言い聞かすような口調で俺に注意を促した。そう言われても、いまいちピンと来ないけど…別にモテてる気もしないし、それに男子って何だよ?
「アブナイ奴って…」
「そりゃー、トモを狙ってる男なんてアブナイに決まってんだろ。本っ当に気を付けろよ」
ああ…そういう事か。
つまり、男が男にそういう気になるなんて正常じゃないって事。
じゃ、俺は?
中2の時からずっとオミが好きで、同じ高校まで受験しちゃって未だに片思いの俺は?
オミからしたら、俺もただのアブナイ奴なのかな…
ぱっとオミの手を振り払って、近くのぶらんこに飛び乗った。
勢いをつけてぐんぐん高く漕いで行く。目に映る景色が前に後ろに流れて気持ち良かった。
このまま、胸の隅に生じたもやを吹き飛ばしてしまえば。
「高校生になってもトモはぶらんこ似合うんだなー」
のんびり笑うオミを横目に見て、俺は足元を蹴って鎖から手を離した。
一瞬、ふわりと浮く感触。そのまま着地−するはずだったのに。
爪先が何かに引っ掛かってバランスを失った。
(やばっ……!)
咄嗟に腕で庇おうとしたけど間に合わなかった。次の瞬間には強い衝撃と共に地面に叩き付けられていて。起き上がろうとするとくらっと来て、頭を打ったんだろうかと思った。
「トモ!大丈夫か?」
オミが駆け寄ってきて抱き起こしてくれる。公園にいた他の人たちも遠巻きにこちらを見ていた。
「だ、だい…」
しゃべった途端に頬に鈍い痛みが走った。触ってみると土で汚れている。オミが持っていたタオルで軽く払ってくれたけど、その感触すらも痛みに変わった。
「とりあえずトモん家帰ろう。痛かったら言って」
オミは俺を抱えて走り出した。



結局そのまま病院に直行になった俺は、左頬の骨に軽いひびが入っているとの診断を受けた。
痛み止めがきいているけど、打った所は時間がたつほど腫れて来ている。
状況を説明する為に一緒に病院に来たオミは、何度も俺の親に頭を下げていた。
「オミが気にする事ないよ。そのうち治るんだしさ」
そう言っても、オミは黙って下を向くばかりで。
本当にオミが悪いとは思っていないし、オミが責任を感じて辛そうにしているのが俺にはたまらなかった。
「明日、気まずいかなあ…」
絆創膏の上から頬をさすってみる。
ケガじゃなく、心がちくちく痛んだ気がした。

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