■第三章

彼女が出来た時と同様、揃ってフラれた俺達。
夏休みが明けると、学年の有名人(はオミ個人かもしれないが)をフった元彼女達の行動は、ある意味武勇伝として広まった。
「お前さあ、あんまり人に言うなよ。俺らがカッコ悪いだろ」
「それくらいイイじゃない。言っとくけど私はほんとに好きだったんだからね」
「…すいません」
ユイとは特にぎくしゃくする事もなく、友達としてやって行けそうだ。オミもカオリちゃんと変わらず接しているらしい。ちょっと妬けるけど…
オミとのコンビを本格的に復活させた俺には、どうしても気になっていた事があった。
カオリちゃんの「オミの心ここにあらず」発言。
夏休み明けのとある昼休みに、他目的ホールでだべりがてら思いきって聞いてみた。
友達としてだ。あくまで友達として。誰だって不思議に思う事じゃないか。俺が聞いたって不思議じゃないだろ。そう言い聞かせて。
「え?カオリにフラれた理由?何、今更」
「だって、お前ら上手く行ってたんじゃん…その、最後まで……」
軽くしまったと思ったけど、もう遅い。オミの顔がゆっくりこっちを向くのを、俺は死刑宣告でも待つ気分で見ていた。
「何だよ、最後って」
いぶかしげな顔をして俺を覗き込む。
「い、言わす気かよ…!見たんだからな、海行った時に。キ…キスマーク……」
「キスマーク……」
オミはしばらく考えこんで、ぽんと手を打った。
「ああ、あれか」
「そうだよあれだよ!オミだろ?オミが…ぶっ」
まくし立てる俺の顔にオミの大きな手がかぶさる。
「勘違いすんな。あれは虫刺されの跡だよ」
真相はこうだ。
カオリちゃんは海に行く数日前に首を蚊に刺されて、跡になるのを相当気にしていたらしい。
気をつけて薬を塗ったりしていたが、結局かゆみが取れてもなかなか赤みが引かず、ファンデーションで隠していたんだそうだ。それが海で遊ぶうちに落ちて、赤くなっているのが見えてしまったと。
「…マジかよ。嘘みてえ」
「マジだよ。カオリとはそこまでしてないって。してたら別れてない」
そうか。そうだったんだ。よかった…。
胸のつかえが取れたみたいだった。
最後までしてたら別れてないっていうのがオミらしい。オミなりに真面目に付き合ってたんだろう。だからしなかったんだ。大切にしてたから?それとも…
「俺はちゃんとカオリの事、見てなかったんだよな」
俺の心を読んだみたいに、オミが答えを示して来た。
「一緒にいてもしっくり来なかったっていうか、何か別の事考えてる事が多くてさ。話聞いてる?って何度言われたか」
考えればフラれて当然だよなと言って、オミは小さく息を吐いた。
「何か別の事って…何考えてたんだ?」
「ん?ト・モ・の・こ・と」
オミはにっと笑って、俺の鼻先を指で弾いた。
一気に血が集まったように顔が熱くなる。黙って赤面していると変に思われそうで、俺は照れ隠しにオミの両頬を思いきり引っ張った。
「冗談を言うのはこのクチかっ」
「いででででで!」
しばらくばたばたと暴れた後、オミは俺の両手を引き剥がした。
「冗談じゃないって。言っただろ、トモと遊んでる方が楽しいって」
それは、彼女よりも俺を選んでくれたと解釈していいんだろうか。
俺が望んでいるような意味ではないのだとしても。
「トモがいれば彼女なんかいらないって言ったじゃん」
「言った…っけ…」
あの日ファミレスで言われた事を思い出して、何度も頭の中で反芻した。
そうだ。色々あり過ぎて訳わかんなくて泣いてたけど、あの時オミは確かにそう言った。
「だからさ、トモももう彼女なんか作らないで、俺といっぱい遊んでくれよ」
抜け駆け禁止な、とオミは笑う。
どっちかっていうと、また次に彼女ができるんなら絶対オミの方だと思うけど。
「よお、お二人さん。相変わらず仲のよろしいことで」
俊が通りすがりに俺達をからかっていった。
オミの手に掴まれた俺の手が熱い。

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