案の定、佐藤さんの話はオミに関する事だった。
彼女はいつも群がってくる女子達に混じっている事はない。どちらかというと大人しい感じだったから、印象は悪くなかった。それだけに、この子がオミにそういう感情を抱いているという事は俺に取って心中穏やかではないのであって。
「幸田君、いつも一緒にいるでしょ…だから」
つまりは俺にオミとの仲を取り持ってくれと。
俺がオミに惚れてるから他人の手伝いしてる場合じゃない。
とは言えず。
「うーん、俺からっていうより佐藤さんが直接動いた方がいいんじゃない?オミにはストレートな方がいいと思うし」
「そうなの?」
「あいつ、ああいう性格だし。それに俺が佐藤さんの相談受けたって知られない方が良くない?」
ゴメン、佐藤さん。俺からオミに誰かと付き合ってやってくれなんて言えないんだよ。言いたくない。俺だって自分の気持ちを伝えたいけど伝えられなくていっぱいいっぱいなんだ。
「佐藤さん結構かわいいから、いけるかもよ。頑張んなよ」
本当はそんな事望んでないくせに、俺のバカ。偽善者。
俺だって誰かに「頑張れ」って言って欲しいよ。


オミから「佐藤さんに告白されて、付き合う事にした」と聞かされたのは、その数日後の事だった。


その日はオミと一緒に帰れなかった。
急ぎの用事があるからと嘘をついて、駅まで走って電車に飛び乗って。
家までの1時間ちょっとがすごく長く感じて、早く一人になりたくて辛くてしょうがなかった。
家族が心配してたけど、帰ってからは夕飯も食べずに部屋にこもって泣いた。
泣いて、泣いて、こんなに泣いた事ないと思うくらい泣いて。
夜中になってから風呂に入ろうとして脱衣所の鏡を見たら、ひどい顔をしていた。
そんな顔するな。オミが変に思うだろ。
そう自分に言い聞かせて頬を叩くと、また涙が出た。


次の日からも、オミは毎日チャリで駅と学校の間を送り迎えしてくれた。
「俺じゃなくて佐藤さんにしてやれよ」
ぼそりとそんな事を言ったら、女の子は危ないから乗せられないって。
トモが運動神経いいの知ってるから、後ろにのっけて無茶できるんだよとオミは言う。
何だか余計に切なかった。
そのうちオミと佐藤さんの仲がみんなにも公認になって、校内ではオミの隣に佐藤さんがいる事が多くなった。俺は居場所を失った気分だった。
そんな時、いつもオミと俺の周りにいた女子のうちの一人が、俺に話し掛けて来た。
「幸田君、佐藤さんに木下君取られちゃったねえ」
「あー、あいつが楽しいんならいいんだよ」
生返事しかできなくてごめん。俺は傷心中なんだ。
「でも幸田君、最近つまんなそうだよ。何なら私と付き合わない?」
その女子―天野結は、にこにこしながらそう言った。
「あのなー。そんな風に慰められても…」
「冗談じゃなくって。私は最初から、木下君より幸田君の方がいいなって思ってたんだから」
告られた。理解するのに時間がかかった。
俺はちらりとオミに目をやった。佐藤さんと楽しそうに話している、オミ。俺の手にはもう届かないんだろう。
「じゃ、いいよ。俺おまえの事きらいじゃないし」
ひどく投げやりな気分で、俺は天野ににっこり笑ってみせた。
オミが見ていればいいなんて思いながら。

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