日曜日。
俺は張り切って約束の30分前には駅に来ていた。
もしオミが早く着いてしまって、待たせるような事になったら申し訳ない。それよりも早くオミに会いたくてしょうがなかった。
昨晩オミが待ち合わせの確認で電話をかけてきた時、当時は携帯を持っていなかったからイエ電にかかってきたのを母さんが取次いでくれたんだけど、俺はお礼もそこそこに子機を奪い取るように部屋にこもって話をした。
どきどきして眠れなかったけど、何とか早起きして今に至る。
「そろそろかな…」
そわそわしながら、電車が着く度に改札から出て来る人たちの中にオミの姿を探す。
待ち合わせの10分前、オミを見つけた。
「オミ!ここ!」
オミが気付くように飛び跳ねて手を振って。
「おー、ごめん待たせた?」
「ううん、全然。…あれ?何、それ」
見るとオミは、小さなラジカセを持ってきていた。
「ああ、結構持ち歩いてるんだ」
「でもラジカセならうちにもあるよ。それじゃないとダメなの?」
「外で使うからさ、自分のじゃないと。俺ダンスやってるんだ」
「ダンス?!」
びっくりした。
聞けばオミは体を動かすのが好きで、自己流ながら海外アーティストのビデオで研究したりしてダンスの練習をしているという。どこでもできるように、休日も出かける時はラジカセを持ち歩く事が多いんだそうだ。
「公園とかでやってると、見てて拍手してくれる人もいるんだよ」
「すごいね…」
感心してしまう。つくづく自分とは違う世界を見ているというか。
でもオミはそんな俺に対して、もっとびっくりするような事を言い出した。
「すごいねじゃないって。今日からトモもやるんだよ」
「へっ?!」
何の為に持って来たと思ってんの、とオミは笑った。
「トモ、見た感じ運動神経は良さそうだし。大丈夫だよ」
俺がちゃんと教えてあげるから。
そう言って笑顔を見せられると、俺はそれ以上NOと言えなかった。


ちょっとうちにも寄らせてみたら、オミは家族からえらく評判がよかった。
「昨日の電話の時にも思ったのよー、礼儀正しいわよねえ」
母さんがデレデレしている…
「やだ、ホントにカッコいいじゃん!」
姉ちゃんまでしゃしゃり出て来た。
「オミ君てさ、彼女とかいないの?モテるでしょ」
その言葉にどきりとした。考えないようにしていた事なのに。
やっぱりいるんだろうか。でもいたとして、それが俺に何の関係があるかと言われるとよく分からない。
ぐるぐると思考を巡らせていると、オミが明るい声で答えた。
「いないですよー。欲しいですけど」
「「えっ、ホントに?」」
姉ちゃんと俺の反応が見事にかぶって、思わず顔を見合わせる。
オミはそんな俺たちを見て吹き出した。
「そっくりだ」
やめてよー!と反論する姉ちゃんと、苦笑する俺。
正直、ほっとしていた。


その日はオミのダンスを軽く見せてもらって、俺は基本的なステップなんかを少し教わった。
オミは自分で言った通り丁寧に教えてくれて、腕が触れたりする度に俺はどきどきした。
慣れないダンスを人通りのある所で練習する緊張もあったんだと思う。
それ以外の何か……あまり感じた事のないような感覚。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、俺はオミを駅まで送って行った。
改札を抜けたオミに手を振ってホームに向かう後ろ姿を見送っていると、その後ろ姿がふいに振り返って。

「来週も来ていい?」

オミは確かにそう言った。
俺は驚いたのと嬉しいので何も口に出せず、ただただ何度も頷いた。


それから何度会っても、あのどきどきする感覚はなくなる事はなかった。
親友と呼んで何ら問題ない程距離が近くなって、たまにはプロレス技をかけ合ったりするような遠慮のない仲になっても、オミと触れあう事に精神的な免疫ができないままで。
オミに会えなくて寂しくて仕方がなかったテスト期間に、俺は自分の気持ちをこう解釈した。
きっと恋なんだ、と。

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