俺、幸田朝矢(こうだともや)とオミこと木下和臣(きのしたかずおみ)の出会いは、2年前にさかのぼる。
中2だった俺達は、それぞれが埼玉と千葉に住んでいたから当然中学は別だった。
それが何で知り合ったかというと、簡単に言えばナンパだ。
…簡単に言い過ぎかも知れないけど。
学校の行事で渋谷に来ていた俺は、帰りに友達と別れた後で人込みに飲まれた。
もともと小柄だし、その頃は渋谷なんて慣れてなくて前に進むのも大変で。
弾き出されて逃げるように入ったファーストフード店もすごく混んでて、とりあえずポテトとコーラなんか買ってみたけど席がない。
(何やってんだろ俺…)
「ここ、空いてるよ。相席だけど」
トレイを手に途方に暮れた俺に近くの席から声をかけてきたのがオミだった。
「え、あの」
「いいから座んなって。突っ立ってると他の人に邪魔だしさ」
向かい合ったオミはすごく大人っぽく見えて、最初は年上かと思った。
お礼がてら自己紹介をしたら同い年だと分かったものの、俺はどうしても畏縮してしまう。
自分より大きいだけじゃない、俺の友達にはいないタイプだったから少し戸惑っていたのかもしれない。

でも、カッコいい。
そう思った。

オミは明るい性格で話も上手く、屈託のない笑顔でどんどん俺の緊張を解いてくれた。しばらく話すうちに、気がつけば俺達はすっかり打ち解けていたのだ。
「ね、また会えるかな?俺と友達になってよ」
最初にそう言ったのは俺の方からだった。
オミは快く応じてくれて、「他校の友達欲しかったんだ」なんて言ってくれて。
聞いてみたらお互いの家が遠くてがっかりした。こういう渋谷みたいな所に出てくるのは苦手だし、どうしようか。なんて考えていると、オミが身を乗り出して
「千葉に住んでるってさあ、もしかして海近い?」
と聞いて来た。
ウチは最寄り駅の名前に「海岸」がついているくらいで、家から海までチャリで行ける。
そう説明すると、オミは自分が千葉まで遊びに行くと言い出した。
「ホラ、埼玉って海なし県じゃん?水に飢えてるんだよ」
そんな理由だったけど。
じゃあ早速今度の日曜に、と約束をして、一緒に電車に乗った。
「あのさ、俺のこと木下君とか呼ばなくていいから。オミって呼んで」
「オミ?」
「カズオミだから。兄貴の和典がカズって呼ばれてるから、俺はオミ」
お兄さんいるんだ。 オミのお兄さんなんて言ったら、一体どれだけカッコいいんだろう?
「で、君のことは?何て呼ばれてんの」
「えっと…みんな名前で朝矢って」
「じゃ、俺はトモって呼ぶ」
そう言われてなんだかどきっとした。他のみんなとは違う、「特別」な気がしたから。
実際オミはそんなことまで考えていないだろう。それは分かっているんだけれど、俺は一人で赤面した。
「じゃあな、トモ。日曜に」
オミは早速その呼び名を使って、乗換駅で降りて行った。

日曜になればまたオミに会える。
その気持ちの正体が恋だったなんて、「新しい友達ができた」という喜びに支配されていた俺自身が、その時はまだ気付いていなかった。


その日の夜、俺は夕食の席でオミの事を家族に話した。
うちはいわゆる家族団らんをきちんとしている家で、その日あった事なんかを話すのも普通の事で。
何より俺は新しい友達ができたという喜ばしいニュースを、早く誰かに話さずにはいられなかったのだ。
背が高くて、大人っぽくて、カッコよくて、他の友達とは違ってて。
そんな人が俺の友達に加わったという事に家族も多少驚いてはいたけれど、こっちに遊びに来るなら連れてきたらと言ってくれた。
「そんなにカッコいいんなら、私の彼氏にしてもいいかも〜。2コ下なら許容範囲だし」
姉ちゃんのこの発言には、即座にダメだと言っておいたけど。
でも、考えてみればあんなにカッコいいオミがモテない訳がない。まだ中2とはいえ彼女くらいいるのかも。渋谷で遊んだりしてるんなら逆ナンもありそうだし、オミが俺に声をかけてきたみたいに女の子に声をかけてる事だってあるかもしれない。
あんまり考えたくなかった。

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