「ぼくの知らない君」(とらイチ)


抱き締めた身体が小さく震える。
横たえてしまえば20cmを超える身長差も触れ合いの妨げにはならない。服を着た状態で見えている肌の一部を、痕を残さないように優しく吸った。ぎゅっと握られた拳を上から包んで、指を一本ずつ開かせる。全部開くと、自分の指と絡めて握らせた。
「ん……っ、ちょっと、待っ、」
赤くなった耳朶を甘噛みすれば、市川の耳には大雅の吐息が甘さを含んで送り込まれる。可愛くて仕方ない、やっと手に入れた恋人だ。
「でも、先に反応したの、おまえだろ」
「あ、」
脚の間に膝を入れて、その部分を軽く擦ってやる。大雅の頬は一層赤みを増した。
待てるわけがない。食べてしまいたい。
衝動に逆らうことなく首筋に噛み付き、今度はしっかりと所有印を刻んだ。

初めて出会った時は、眉も口角も視線も下げて、涙を零していた大雅。
放っておけずに手を差し出したのは小さな正義感と新しい友達が欲しい興味からで、短い期間ではあったけれども無二の親友となった大雅をこれ以上泣かせる者がいれば自分が許さないと、幼心にそう思っていた。
なのに、最後に見た大雅の泣き顔を作った原因はまぎれもない自分で。
どんなことがあっても守ってやると思っていたのにあっけなく引き離されて、己の無力さを思い知らされた。

どうしているだろう、元気だろうか、また誰かに泣かされていないだろうか。

大雅はそんな心配をよそに、次に相見えた時にはまっすぐで力強い視線を向けて来た。それも喧嘩も辞さないというほどに。
もう絶対に離すまいと捉まえて手懐けて、また泣かせて、想いを伝えて。一筋縄ではいかないのは覚悟していたけれど、昔と違って少しでも目を離したら自分の意志でどこかへ行ってしまいそうな大雅を、昔以上に目をかけて愛するのは、なかなか悪いものでもない。
だから、刻み込んでおきたいのだ。いつどこへ行ってしまっても戻ってくるように、これは自分のものだという印を。

揺さぶる度に殺し切れない声を漏らす大雅を、心の底から可愛いと、愛しいと思う。
恥ずかしがって顔の前に翳した腕を退かせれば小さく抗議の素振りを見せる恋人に、市川はこう囁くのだ。
「見て。俺のこと」
感じている表情も、余裕無く歪んだ眉も。大雅にとって、自分について知らないことなど何一つないように、全部。
大雅は服一枚脱ぐことにすら戸惑いを見せるけれども、自分は何を見せてやったっていい。身体中余すことなく、望まれれば内臓だって引きずり出して曝してもいい。
我ながら馬鹿らしいと思うほどに、大雅にのめり込んでいる。

「とら…、見ろって、」
名前を呼ぶと不意に締め付けられ、思わず息が詰まった。薄い隔たりは感覚を損なうことなく大雅の熱や震えを市川自身に伝え、市川もまた己の存在を示すように、大雅の中を割り開く。
「なあ、とら」
「あ…っ、あ、ぁ」
腰をぐっと進めると、大雅の瞳に涙の膜が張る。それでも言われるまま健気にこちらに視線を向け、潤んだその表面で市川の表情が揺れた。息を吐く感覚がさらに短くなった。
「あ、だめ、もうだめ、ぁ、ア、っ」
予告からほどなく、最後に小さく鳴いて、大雅が極まる。か細い悲鳴とは裏腹な締め付けの中、市川も本能に逆らうことなく解放の瞬間を迎えた。呼吸を整えながらも緩く抜き差しを続ける市川の下で、余韻の収まらない肢体が時折びくりと小さく跳ねた。
「…泣くなよ。怖かった?」
涙に濡れた目尻を吸って、頬にもキスを落としてやる。未だ乾かない目を手の甲で擦って大丈夫だと強がる姿は子供の頃のままで、市川はふっと微笑うと大雅の背に腕を回して、やさしく抱き締めた。

Fin.

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