「あふれる涙」
※長編「トモとオミ」第三章(6)以後の設定です。


「嘘だ…」

トモの目から、大粒の涙が零れ落ちた。
次々に零れて、トモの頬を濡らして。

「好きなんだよ、トモのこと」
きっかけは俺の一言。
トモは驚いたように目を見開いて、それから泣き出した。
嘘じゃないと言っても、何度拭っても、その涙は止まらない。
こんなに泣くまで悩ませていたのかと思うと胸が痛んだけれど、こんなに悩むほど俺のことを考えてくれていたのかと思うと、愛しくてたまらなくなった。

どうして、最近まで気づかずにいたのか。
いつも近くにいた親友が、いつの間にかこんなに大切な存在になっていたなんて。

気づいた時は戸惑うしかなくて、トモとの接し方すら分からなくなった。
俺と一緒にいる時にさせた怪我を見る度、他の奴と一緒にいるトモを見る度に苛々して、ますますトモを遠ざけた。
それでも、自分以外の誰かにトモを取られるのが嫌で。
今まで誰にも感じたことのない感情が渦巻いて、行き場をなくしてしまっていた。

「簡単な方法があんじゃねーの、いっこだけ」
俺を呼び出した奈良は、何の前置きもなくそう口にした。
「お前らめんどくせーんだよ。簡単なことをわざわざ回りくどくしやがって」
吐き捨てるようにもう一言。
「…奈良、お前」
「知るか。これで分からねーなら、お前に朝矢の側にいる資格なんてねーよ」
−そうなったら、俺がもらう。
暗にそう言われた気がして、俺はその「簡単な方法」を実行に移した。

「嘘だ…っ…だってオミが……そんな訳、ない…」
トモは俺の言葉を否定しながら、なおも涙を流し続ける。
(綺麗だな…)
状況に不似合いな感情がふと脳裏を過った。
震える唇に吸い寄せられるように、自分のそれを押し付ける。
「好きだよ…トモ。親友だけど、それ以上に大切に思ってる」
確信した。
もう、誰にも渡さない。
「嘘みたいだ…オミ…っ」
縋り付いてくるトモの背中を、しっかり抱き締めて。
トモの涙が、俺の肩を濡らして行く。

今は好きなだけ泣けばいい。
その涙が溜めてきた辛さを洗い流してくれるなら。
俺の分まで、全てを浄化するほどに。

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