付き合い始めて最初の冬休み。
毎日のようにオミが遊びに来たり、俺がオミの部屋に行ったりして恋人らしい日々を過ごしていた。
学校にいる時と違って、一緒にいる間じゅうオミを独占できる。会えば会う程、日ごとにオミを好きな気持ちが自分の中で膨れ上がって行くのを感じた。
大晦日。
「今日はトモと一緒に電車乗らなきゃな」
お正月の間だけ実家で過ごす為に用意してあった大きなスポーツバッグ。それをじっと見ていた俺の髪を撫でて、オミが呟いた。少し寂しそうに。
帰るまでの時間を惜しむように抱き合って、たくさんキスして、駅へ向かう道はこっそり手を繋いで。
「電話するから」
別れ際のオミの言葉に頷く事しかできなくて涙ぐんでしまった俺の耳元に、オミは小さなキスをくれた。その感触を思い出すと顔が熱く……


「朝矢、顔が赤いよ。熱あるんじゃないの?」
年が明けて、俺は風邪を引いた。


どうせ家にいたってする事ないから寝てても変わりないんだけど。
(…オミにも会えないし)
ごろりと寝返りを打ったベッドがやけに広く感じられる。いつも過ごしている自分の部屋なのに全然落ち着かなくて、まるで知らない場所に一人で置いて行かれたような孤独感にさいなまれて泣きそうになった。
こんな時、もしオミが側にいてくれたら。
きっと心配してあれこれ世話を焼いてくれるに違いない。
(でも、今日で良かった。迷惑かけなくて済んで)
信じられないくらい俺の事を大切にしてくれるから、もしかしたらただの風邪でも一晩中起きて様子を見てくれるかもしれない。
…ちょっと自信過剰かな。でも、俺なら多分そうする。オミが好きで、すごく大切だから。
(会いたいよ、オミ)
会いたい、声を聞きたい。優しい手で触れてほしい。

『好きだよ…トモ…』

抱かれている時の低くて甘い声が耳の奥にこだまする。
寂しさを紛らわすように、枕を抱いて丸くなった。


目が覚めるともう暗くなっていて、居間に出て行くと家族が夕食をとっている所だった。
「あら、起きた?食欲ある?おせちがきつそうだったらお粥もあるけど」
「ん…あんまりお腹空いてないから…」
「そう?じゃあ、リンゴでも剥こうか?食べられるようなら食べればいいから、ね」
自分の食事もそこそこに席を立った母さんを見て、家族ってありがたいなと思う。オミも今頃こうして家族との時間を過ごしているんだろう。普段離れて暮らしている分、団らんを満喫しているだろうか。今は、俺は我慢しなくちゃいけない。
その時、奥の部屋から携帯の着信音が聞こえて来た。
「朝矢のじゃないの?」
「あ、うん…」
オミかもしれない。俺は急いで部屋に戻って、携帯を手に取って確かめた。

「…なんだ、俊か」
「なんだはないだろー?新年早々テンション低いなー」
表示されていた名前は「奈良俊介」だった。俊には悪いけど、少しがっかりしてしまう。
「風邪引いたんだよ…」
自分で口に出すと、改めて具合が悪くなってくる。俺は床にへたり込んでため息をついた。電話の向こうで、俊の小さな笑い声が聞こえる。
「その調子じゃ無理そうだな、明日どっか買い物付き合ってもらおうと思ったけど」
俊はオミと俺が三が日は会えないのを知っていて、誘うつもりでいたらしい。悪いけど…と断って電話を切り、もう一度ため息をついて居間に戻ると、こたつの上にリンゴとみかんが出されていた。
それを少しずつ食べながらぼんやりテレビを見ていると、10分くらい経ってからまた携帯が鳴った。
(まだ話し足りない事でもあんのか、あいつ)
重い腰を上げて部屋に戻ると、今度は違う名前が表示されていた。
「もしもし、オミっ?」
慌てて出たので、思わず声が裏返ってしまった。携帯を持つ手が震える。こんな事、今までなかったのに。
「トモ?変わりない?」
「…っ、うん…」
オミの優しい声が聞こえて来て、答えようとした喉が詰まる。たった一日だけなのに、長い間会っていなかったような気がする程焦がれていた。

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